「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
―見て、あの子でしょう?
―部長の兄と付き合ったって・・
―大人しい顔をして、やるわね。
千鶴がオフィスで仕事をしていると、時折ヒソヒソと意地の悪いささやきが聞こえて来た。
「気にしない方がいいですよ。」
「うん・・」
「雪村さん、今からこの書類、コピーして来てくれない?」
「あ、あとこれもお願い。」
大量の書類と仕事を琴子達から押し付けられた千鶴は、定時を過ぎても“さくら”へ行けずにいた。
「先輩、まだ残っていたんですか?後は俺がやっておきますから。」
「ごめんね。」
「この前、中岡の事を聞いてきましたよね?俺、あいつとは中学から同じだったんですが、その時から色々と悪い噂があるようです。」
「悪い噂?」
「ええ、何でも暴走族の彼氏と一緒になって悪さをしていたとか・・あいつ、色々とヤバイ奴みたいです。」
「わたし、あの人から嫌われたのかな?」
「気にしない方がいいですよ。」
「そうだね・・」
残りの仕事を終えて千鶴が疲れた身体を引き摺りながら最終バスに乗り込んだのは、午後九時過ぎだった。
「千鶴ちゃん、今日も休みですって。」
「最近仕事が忙しいのか、あいつ?」
「う~ん、そうでもないみてぇなんだ。」
龍之介はそう言うと、総司に千鶴とのラインを見せた。
そこには、“同僚から大量の仕事を押し付けられて困っている”といった内容が書かれていた。
「同僚って、どんな子なの?」
「こいつだよ。どっかで見た顔だと思ったら、中学の同級生だ。」
「ふぅん。」
龍之介のスマートフォンに表示されていたのは、ビキニ姿で大きいサングラスをかけているギャルの写真だった。
「こいつ、結構色々とヤバイ噂があったんだよ。子供五回中絶したとか、暴走族の彼氏と一緒になって窃盗団結成したとかさ。雪村さんと同僚になっちまったなんてなぁ・・」
「千鶴ちゃん、余り無理しないといいけど。」
“さくら”のロッカールームで二人がそんな話をしている頃、隼人は新しい愛人と彼女の部屋で飲んでいた。
「ねぇ、奥さんとは別れるつもり、ないのでしょう?」
「あぁ。」
「まぁ、わたしはでしゃばらないから安心して。」
「・・そうか。」
情事の後、隼人はそう言うと愛人の髪を優しく梳いた。
「また、繋がらないわね・・」
「放っておきなさい。」
「でも・・」
「男は浮気する生き物なのよ。」
そう言った麗子は、少し冷めた紅茶を一口飲んで溜息を吐いた。
「雪村、ちょっといいか?」
「はい・・」
突然千鶴は隼人に呼ばれ、慌てて彼のデスクへと向かった。
「あの、部長・・」
「相馬から、あいつ(中岡)との事は聞いた。あいつには今日限りで辞めて貰う事にした。」
「そうですか・・」
「今日は早く上がれ。兄貴には俺の方から色々と話をつけてある。」
「ありがとうございます。」
「礼は要らねぇ、仕事に戻れ。」
「はい。」
自分のデスクに戻ると、琴子の取り巻き達の方から氷のような視線を千鶴は感じた。
「先輩、お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
千鶴は定時に退社し、二週間ぶりに“さくら”へと向かった。
「千鶴ちゃん、久しぶり。」
「お久しぶりです、皆さん。あの、暫く休んでご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした。」
「色々と大変だったみたいだし、そこのところはみんなわかっているから大丈夫だよ。」
「はい・・」
「土方さんは、今取引先に行っているから、戻って来たらちゃんと今回の事について話した方がいいぜ。」
「わかりました。」
「さてと、千鶴ちゃん、休んだ分しっかり働いて貰うよ?」
「わかりました、頑張ります!」
「今日は、インスタ映えスイーツの作り方を教えるね。一度しか教えないから、動画を撮って後で復習しておいてね。」
「はい!」
帰宅後、千鶴はすぐに“さくら”の厨房で撮影した動画を何度も再生し、インスタ映えスイーツ作りに励んだ。
「へぇ、一日でこの完成度は大したものだよね。じゃぁ早速、行こうか。」
「え、何処へですか?」
「土方さん、今熱海のリゾートホテルのスイーツビュッフェの手伝いへ行っているんだ。人手不足で何人か助っ人が欲しいと思っていたところだから、君と一緒に僕も熱海に行くって土方さんに伝えておいたよ。」
「わかりました・・」
こうして、千鶴は総司が運転する車で熱海へと向かった。
「そうか、昼過ぎには着くか。わかった、待ってるぞ。」
「誰からの電話?」
「総司からだ。それよりも姉貴、こういう事は前もって連絡してくれねぇか?」
「あら、連絡したからいいでしょう?」
「数日前にされても意味ねぇだろうが。」
「はは、そうね。」
歳三の姉でホテル「翠石荘」のオーナー・信子はそう言うと大声で笑った。
「土方さ~ん、来ましたよ!」
「おう総司、雪村も来たのか。」
「土方さん、仕事を休んでしまって申し訳ありませんでした。」
「色々と大変だったろう?今日は仕事が終わったらゆっくり休んでくれ。」
「はい・・」
「トシ、あんた変わったわねぇ。昔はあんな事言わなかったのに、今は・・」
「厳しいだけじゃ、人は育たねぇだろう?」
「そうね。ま、仕事の後はうちでゆっくりしていって。」
「ああ。」
スイーツビュッフェには、平日だというのに沢山の女性客達で賑わっていた。
「千鶴ちゃん、休憩行っときなよ。」
「はい。」
千鶴が昼休憩に入り、ホテルの近くにあるカフェでランチを取っていると、そこへ一人の男性が声を掛けて来た。
「隣、いいか?」
「はい。」
「あんた、ホテルでさっき働いていた奴だよな、名前は?」
「えっと・・」
初対面だというのに、妙に馴れ馴れしい様子で話し掛けて来る男に千鶴が少し警戒していると、そこへ歳三がやって来た。
「そいつは俺の連れだ。ナンパなら他を当たれ。」
「チッ」
男は舌打ちすると、カフェから出て行った。
「助けて下さって、ありがとうございます。」
「お前ぇはあんまり男慣れしてねぇようだな?」
「はい。学校は高校まで女子校で、大学も女子大でしたので、異性と付き合う機会がなくて・・」
「合コンとかは、行かなかったのか?」
「はい。わたしは勉強に忙しくて・・」
「そうか。」
「土方さんは、どのような学生時代を過ごされたのですか?」
「パリで修業中だったな。右も左もわからねぇ中で、とにかく技術を身につけるのに必死だった。」
「“さくら”の事務室のデスクに、写真立てが置いてあるのを見ました・・」
「あぁ、あの写真は、俺が高校時代の時に撮った写真だよ。あいつ・・近藤勇は、数年前に交通事故で死ぬまで、俺の親友だった。」
「じゃぁ、“さくら”は・・」
「元々、親友の店だった。あいつが事故で死んだ後、俺があの店をあいつから引き継いだ。経営者とパティシエの二足の草鞋を履く生活は大変だが、遣り甲斐がある。」
そう自分に話してくれた歳三の瞳は、宝石のようにキラキラと輝いていた。
(この人の元で、もっと技術を磨きたい!)
そんな中、隼人は貴子と共に都内にある不妊治療専門クリニックを受診していた。
「大変申し上げにくいのですが・・奥様は、自然妊娠が難しいかと・・」
「そんな・・」
クリニックを出た帰りの車の中で、貴子は隼人にある提案をした。
「あなたの昔の女、雪乃って言ったかしら?その息子をうちの跡継ぎにしない?」
「お前、何言って・・」
「パパ達からは、わたしが言っておくわ。」
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