「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
「断る。俺ぁこれから忙しいんだ。」
「じゃぁ、トシさんが仕事終わるまで待ってるよ。」
「ガキか、てめぇは。」
「だって一人で居ると寂しいんだもの。」
「クリスマス=イヴの夜に、パーティーにも行かずに野郎二人で飲みてぇって物好きが何処に居るんだよ?」
「ここに居るよ~」
「ったく・・」
土方は軽く舌打ちすると、クリスマスケーキの生地を作り始めた。
パティシエが一年で最も忙しい日は、皮肉にも家族と友人、恋人と過ごすクリスマス=イヴと、クリスマスである。
生地を作り、完成したスポンジをオーブンに入れて焼き、二百個分のケーキを土方が完成させた頃には、朝の六時まわっていた。
「あ~、疲れた。」
「トシさん、今からでも飲みに行こう。」
「うるせぇ、俺は二階で仮眠する。」
「え~!」
「土方さん、おはようございま~す!」
「総司、今朝は珍しく早いな、どうした?」
「今日は、クリスマスでしょう。さっさと仕事終わらせて、大手インスタグラマーのクリスマスパーティーで作るケーキを納品しなくちゃね。」
「そうか。まぁ今日は俺が昨夜予約分のクリスマスケーキを全部仕上げたから、楽勝だろ。」
「ありがとうございます、土方さん。」
「おはようございます。」
「おはよう、はじめ君。君も早いね。」
「当たり前だ。」
「さてと、全員揃ったから、仕事するか!」
「は~い!」
オープンまで、あと四時間。
パティシエの最も忙しい一日が、始まろうとしていた。
「斎藤、レジ頼む!」
「はい!」
「総司、そっちはどうだ!?」
「大丈夫です!」
店が朝十時からオープンすると、たちまち店の前にはクリスマスケーキを買い求める客が長蛇の列を作っていた。
「あ~、疲れた。」
「そうだね。ねぇ伊吹君、君なんでパティシエになろうと思ったの?」
「まぁ、俺本当は画家になろうと思っていたんだけど、美大は高いから・・」
「ふぅん、それで美大行かずに製菓専門学校に行ってパティシエになったって訳?パティシエなめてるの、君?」
「俺はただ・・」
「おいてめぇら、もう休憩時間終わってるぞ、さっさと仕事に戻れ!」
「戻ろうぜ、沖田!」
「はいはい。」
「“はい”は一回!」
「君、何先輩に向かってそんな生意気な口を利いているの?そうだ、明日の生地の下ごしらえ、君に全部任せるよ。」
「え~!」
(理不尽過ぎる!)
「おい雪村、何だこれは!?」
「え?」
「え、じゃねぇだろ!この書類、少し抜けている個所があるぞ、すぐに修正しろ!」
「は、はい!」
千鶴は怒り狂う上司から逃げるように、自分の席へと戻った。
「あぁん、そんなこたぁわかってるよ!うるせぇな!」
切れ長の紫の瞳をギラギラと光らせながら、美しい顔を怒りに歪ませた彼女の上司・内藤隼人は、そう叫ぶと受話器を叩きつけるようにして電話を切った。
この会社全体が、皆苛々している。
派遣社員も、正社員も皆ストレスを抱えて互いの足を引っ張り合っていた。
千鶴が修正した書類を隼人の元へと提出すると、彼はさっとそれに目を通した。
「悪くねぇな。」
「ありがとうございます。」
「さっさと仕事に戻れ!」
「はい。」
(内藤部長、昨夜のパティシエの方とそっくりだな・・他人の空似とは思えない位・・)
キーボードを軽やかに叩きながら、千鶴は何とか今日の仕事を定時までに終わらせた。
「先輩、お疲れ様です!」
「相馬君、お疲れ様。」
「何か今日の内藤部長、荒れていましたね。」
「そうだったわね・・」
「噂に聞いたんだけれど、部長奥さんとの離婚話が相当こじれているらしいわよ。」
「え~、何で!?」
「いつものアレよ、アレ。」
更衣室で千鶴が制服から私服へと着替えていると、噂好きの女子社員達がそんな事を話しているのを聞いた。
「まぁ、奥さんが国会議員の娘だから、部長が別れたくても、向こうが別れたくないんでしょうよ。」
「そうかもね。ま、わたし達には関係ないけれど。」
「お疲れ様です。」
千鶴はそっと彼女達の脇を通り過ぎようとした時、その中の一人が彼女の前に立ち塞がった。
「ねぇ雪村さん、内藤部長の愛人だっていうのは本当?」
「嘘です、そんなの!」
「ふぅん、だったらいいけど・・」
彼女はそう言った後、友人達と連れたって更衣室から出て行った。
(何だったんだろう?)
「先輩、一緒に帰りましょう!」
「そうね。」
後輩の相馬と千鶴が連れ立って会社から出ると、会社の前に黒塗りのリムジンが停まっている事に気づいた。
「あの車、誰のだろう?」
「さぁ・・」
暫く二人が車の方を見てみると、隼人がその車の中に乗り込んだ。
やがて車は、人工の銀河の中へと呑み込まれ、消えていった。
「先輩、あれ・・」
「見なかった事にしよう、ね?」
「メリークリスマス、パパ。」
「隼人君、忙しいのにわざわざ呼び出して済まなかったね。」
「いいえ・・」
「ねぇあなた達、そろそろ子供を作る気はないの?」
「やめてよ、ママ。今は仕事が楽しくて、まだ考えてないわ。」
都内某所にある高級ホテルのフレンチレストランの個室で、内藤隼人は妻・貴子と彼女の両親と共に豪華なクリスマス・ディナーを楽しんでいた。
「ねぇ、そんな事言わないで、妊活を考えてみたら?子供が居たら、楽しいわよ。」
「そうですね・・」
義母からそう話題を振られ、隼人はそう言葉を濁した後、デザートのラズベリーのオペラを一口食べた。
一流店で、何度も三ツ星を取った事があった所だが、デザートは最悪だった。
ラズベリーの酸味が強過ぎて、オペラ本来のコーヒーとチョコレートの濃厚な味わいが感じられなかった。
「隼人さん、どうしたの?」
「いや、何でもない。」
「ねぇ、今夜はここの最上階に部屋を取っているのよ・・」
息が詰まるかのようなクリスマス・ディナーの後、貴子はそう言って隼人にしなだれかかった。
「悪ぃが、今疲れているんだ。」
「また、そのセリフね。今度は何処の女とよろしくやっていたの?」
「やめろ、こんな所で・・」
「銀座かしら、それとも北新地?あぁ、この前は札幌ですすきのの女とよろしくやっていたわよね!?」
「やめろって!」
一度怒りのスイッチが入ると、貴子は止まらなくなる。
「どうしてわたしを抱いてくれないの?もしかして、隠し子でも居る訳!?」
「部屋に行こう・・」
「適当にはぐらかすつもりね、もう知らない!」
貴子はそう叫んで隼人に平手打ちを喰らわさせると、エレベーターの中へと消えていった。
(参ったな・・)
隼人は溜息を吐きながらホテルを出ると、タクシーである場所へと向かった。
そこは、新興住宅地の中にあるアパートだった。
「は~い。」
玄関チャイムを押すと、隼人の前に一人の女性が現れた。
「どうしたの、今日は来ないと思ったわ。」
「クリスマスだからな・・」
「パパ~!」
廊下の奥から慌しい足音が聞こえたかと思うと、三歳位の男児が隼人に抱きついて来た。
「メリークリスマス、隼弥。これ、クリスマスプレゼント。」
「ありがとう!」
「ねぇ、向こうには戻らなくていいの?」
「あぁ。」
「早く中に入って、風邪ひくわ。」
リビングに入った隼人が最初見たものは、テーブルの上に置かれた、双子の兄の店のケーキだった。
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