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2010年08月11日
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――<木谷ポルソッタ倶楽部>――――――――――――――――――――

   ■花火大会の夜-1■

―――――――――――――――――――――――<2007/8/6>―――

「昨日ん夜、メバルの煮付けがでたんじゃ」
私の背後で若いやけに元気な声がした。私は耳を傾けた。

「息子が東京から久し振りに戻ったんじゃ。
 なにか刺身の盛り合わせかなんか出して欲しかったよな。
『あんたが帰って来るけんち言うて、父さんが朝から釣りに行ったんや』
 お袋からそう言われるとせちいなっと思いながらも食べたんや」

ふふふ、食べた、さあ、感想を聞かせてくんなまし。
若者はビールを呑んで話を続けた。

「それがおいしいんじゃ。『これメバル』っち、俺、聞き返したもんな。
『普段はもっと大きいもんが釣れるけんど、先日ん台風ためか今日は小ぶりじゃ』
 オヤジが照れて言いよった」

ふふふ、それから、話を続けておくんなまし。

「おいしかったんや。メバルっち思えんかった。
 そんメバルは肉離れもいいし、なにしろ身がしまっちょった。
 東京社員食堂で出るメバルん煮付け、あれは何じゃろうっち思った」

若者は大声で驚きを表していた。
大分に住んでいる友人だろう。笑いながら言葉を受けていた。

「魚が、メバルが新しいもんな。
 それに、あんたんオヤジさんの想いがこもっちょるしな」

ふふふ、私は泣けてきた。
ふふふ、私は大分納涼花火大会の見物に来ていた。
今までは、正面の対岸に席をとっていた。

去年から、花火を打ち上げる方の岸に座るようにした。
大会のアナウンスが聞こえない。屋台などの店はない。
静かに静かに花火を観賞できる。私の一等席なのだ。

誰とかって……ひとりさ……東京にいる時もひとりだった。
隅田川、東京湾、横浜、神宮などの花火大会などのはしごもひとりだった。
花火を見るとね、別れた人を思い出す。別れた人と会話ができるのだ。

大勢の中にひとりでいると、孤独をより感じてしまう。
孤独を感じて感じて、別れた人が恋しくなる。
懐かしい想い出を振り返りながら、別れた人に語りかけてしまう。

東京の花火に比べると、大分の花火は規模が小さい。
ふふふ、小さいけれどね、大分では打ち上げる場所に近いところに座れる。
するとね、花火が大きく見える。音が大きく聞こえる。

それになにより、静かだから周囲の人達の話し声が聞こえる。
東京の雑踏と違って、ヒューマンウォッチングができる。
そう、正式な見学場所である対岸と違って、特にこちらは自由に座れる。

私の斜め前にご年配の女性がひとりで座っていた。
シートの上に缶ビールが置かれていた。一枚の写真が飾られていた。

みんな、いろいろな想いで、花火を見ている。

「さあ始まるぜ」
背後の若者達がつぶやいている。
対岸では打ち上げのカウントダウンが始まっている。

私はビールをひと口呑んだ。
今年の私の夏が始まった。

――――――――――――――――――――――――
 人間のためでも、誰のためでもなく、
 それ自身の存在のために自然が息づいている。
 そのあたりまえのことを知ることが、いつも驚きだった。
        (星野道夫著「長い旅の途上」より。
―――――――――――――――――――――――
  ■発 信 者 :木   谷   文   弘
  ■木谷ムラマチ計画研究室





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最終更新日  2010年08月11日 17時53分43秒



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