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テーマ:木谷ポルソッタ通信より(130)
カテゴリ:報徳記&二宮翁夜話
――<木谷ポルソッタ倶楽部>――――――――――――――――――――
■花火大会の夜-1■ ―――――――――――――――――――――――<2007/8/6>――― 「昨日ん夜、メバルの煮付けがでたんじゃ」 私の背後で若いやけに元気な声がした。私は耳を傾けた。 「息子が東京から久し振りに戻ったんじゃ。 なにか刺身の盛り合わせかなんか出して欲しかったよな。 『あんたが帰って来るけんち言うて、父さんが朝から釣りに行ったんや』 お袋からそう言われるとせちいなっと思いながらも食べたんや」 ふふふ、食べた、さあ、感想を聞かせてくんなまし。 若者はビールを呑んで話を続けた。 「それがおいしいんじゃ。『これメバル』っち、俺、聞き返したもんな。 『普段はもっと大きいもんが釣れるけんど、先日ん台風ためか今日は小ぶりじゃ』 オヤジが照れて言いよった」 ふふふ、それから、話を続けておくんなまし。 「おいしかったんや。メバルっち思えんかった。 そんメバルは肉離れもいいし、なにしろ身がしまっちょった。 東京社員食堂で出るメバルん煮付け、あれは何じゃろうっち思った」 若者は大声で驚きを表していた。 大分に住んでいる友人だろう。笑いながら言葉を受けていた。 「魚が、メバルが新しいもんな。 それに、あんたんオヤジさんの想いがこもっちょるしな」 ふふふ、私は泣けてきた。 ふふふ、私は大分納涼花火大会の見物に来ていた。 今までは、正面の対岸に席をとっていた。 去年から、花火を打ち上げる方の岸に座るようにした。 大会のアナウンスが聞こえない。屋台などの店はない。 静かに静かに花火を観賞できる。私の一等席なのだ。 誰とかって……ひとりさ……東京にいる時もひとりだった。 隅田川、東京湾、横浜、神宮などの花火大会などのはしごもひとりだった。 花火を見るとね、別れた人を思い出す。別れた人と会話ができるのだ。 大勢の中にひとりでいると、孤独をより感じてしまう。 孤独を感じて感じて、別れた人が恋しくなる。 懐かしい想い出を振り返りながら、別れた人に語りかけてしまう。 東京の花火に比べると、大分の花火は規模が小さい。 ふふふ、小さいけれどね、大分では打ち上げる場所に近いところに座れる。 するとね、花火が大きく見える。音が大きく聞こえる。 それになにより、静かだから周囲の人達の話し声が聞こえる。 東京の雑踏と違って、ヒューマンウォッチングができる。 そう、正式な見学場所である対岸と違って、特にこちらは自由に座れる。 私の斜め前にご年配の女性がひとりで座っていた。 シートの上に缶ビールが置かれていた。一枚の写真が飾られていた。 みんな、いろいろな想いで、花火を見ている。 「さあ始まるぜ」 背後の若者達がつぶやいている。 対岸では打ち上げのカウントダウンが始まっている。 私はビールをひと口呑んだ。 今年の私の夏が始まった。 ―――――――――――――――――――――――― 人間のためでも、誰のためでもなく、 それ自身の存在のために自然が息づいている。 そのあたりまえのことを知ることが、いつも驚きだった。 (星野道夫著「長い旅の途上」より。 ――――――――――――――――――――――― ■発 信 者 :木 谷 文 弘 ■木谷ムラマチ計画研究室 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年08月11日 17時53分43秒
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