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2013年12月25日
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2008年(平成7年)5月の時期の 家族新聞 を調べていたら

木谷さんの ポルソッタ倶楽部 があった。

懐かしい、旧友、畏友の想い出はいつまでも懐かしい。 

 

■木谷ポルソッタ倶楽部【エール】


服井先生は私立高校の英語担当の教師だった。

寡黙な人だった。無口だった。横笛と篆刻が趣味という静かな人だった。
春休みだった。桜が直に咲こうという頃だった。
その矢先、突然、服井先生は学校で倒れた。

脳梗塞だった。
学校が休み中だったということで、倒れた先生の発見が遅れた。
救急車で運ばれた時には意識がなかったらしい。

四十一歳だった。

服井先生の葬儀の日、朝から漂っていた霧が昼には小雨に変わっていた。葬儀はとどこおりなく行われていた。
ただ、参列者がどんどん増えてきた。
服井先生の親族と葬儀社の人が協議して二階の会場も開いた。
卒業生たちがなんらかの方法で、先生の訃報を聞き集まったのだろう。一階、二階もいっぱいになり、
会場に入れない参列者たちが外に溢れていた。
友人代表と学校関係者の弔辞が読まれた。
服井先生は学校でも目立たない教師だったようだ。
目立たない教師だったが、人として、教育者として、立派な人だったようだ。各々の弔辞の内容は素晴らしいものだった。
参列者たちの涙を誘った。
葬儀が終わっても、参列者たちは帰る素振りを見せなかった。
出棺の時がきた。親類の人と友人たちが棺を抱えた。
参列者たちをかき分けるように棺は進んでいった。
会社員らしきひとりの若者が、突然、棺の前に飛び出してきた。
棺を抱えた人たちの歩みが止まった。
「待って下さい。
 私にもひとこと服井先生にお礼を言わせて下さい」
若者は封筒から紙を取り出し叫ぶかのように読み始めた。
「服井先生、私は、高校時代、応援団に入り、俗にいうワルで、
授業を真面目に受けずに、学校に迷惑ばかりかけていました。
三年の時、先生が担任になりました。

私の素行は改まることなく退学寸前まで行きました。

先生はおっしゃいました。


『煙草を吸うのも酒を呑むのもおまえの自由だだ。
それはいいだろう。けれど人を傷つけることだけはやめろ』と。

でも、私は応援合戦の末に殴り合いをかなりしました。
その度に、先生は相手の高校に謝りに何度も行ってくれました」
若者の高校時代の担任が服井先生だったらしい。
服井先生にかなりの男気があったようだ。
親族も参列者たちも黙って若者の弔辞に耳を傾けていた。
「そのような私でしたから就職時期を迎えて苦労しました。でも、自分にとっては思いもよらない立派な会社が採用してくれました。退学寸前の私には高校からの推薦書が貰えなかったのに不思議でした。昨日、社長に先生の訃報を知らせ休ませてくれるようお願いしました。すると社長がはじめて教えてくれました。
服井先生は社長に手紙を書いてくれていたのですね。
『学校として推薦書は出せない。そこで、服井個人として推薦したい。少々のワルですが、思いやりのある頑張り屋の若者です。
服井個人が推薦するとともに保証します』と。
社長にとって、あのような推薦書ははじめてだったのことです。
私の入社試験の結果は散々なものだったらしいのです。
しかし、社長は服井先生の推薦書で私を採用したそうです。
社長からもありがとうございますと言ってくれと頼まれました。
服井先生、もう、直接にお礼を言うことはできないのですね。
服井先生、本当にありがとうございました。私は頑張って生きていきます」

若者は紙を封筒へ直すと親族の人へ渡した。
若者は、小雨の中、じっと立ちつくしていた。
戻る素振りはなかった。若者は両手を前へすくっと掲げた。
「服井先生へ感謝を込めてエールを送りたいと思います。
フークーイ、センセイ、チヤチャチャ、
フークーイ、センセイ、チヤチャチャ、
フークーイ、センセイ、チヤチャチャ」
若者は声の限りに叫んだ。若者の手の動きに合わせて参列の在校生たち、卒業生たちは手を叩いた。エールが終わると、若者は両手を頭上高く挙げた。「校歌斉唱。セーノ」みんなが校歌を歌い始めた。
一番だけではなかった、二番、三番までも唄われた。
歌声の中を、服井先生の棺はゆっくりと運ばれた。校歌が終わった。
若者は人文字で佇んでいたが、足を合わせると頭を深く下げた。
卒業生だろう参列者たち全員が頭を下げた。
それぞれの脳裏には、
それぞれの服井先生の姿が浮かんでいたのだろう。
それは春も間近の、服井先生の葬儀での出来事だった。






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最終更新日  2013年12月25日 07時49分12秒
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