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カテゴリ:ネイチャー
「未曾有と想定外ー東日本大震災に学ぶ」畑村洋太郎著
備えて逃げる(p.50-54) 今回の津波ではっきりしたことは、「備えて逃げる」ことの重要性だったのではないでしょうか。 こんな象徴的な話があります。 釜石市・鵜住居町という地区があります。 ここには海の近くに小学校と中学校が併設されています。 津波によって校舎は被災し三階の窓には自動車が突き刺さりました。 しかし子どもたちは地震発生直後に自主的に避難を行ったので、一人の被害者も出すことがなかったのです。 じつは釜石市全体で見ても、小中学生でなくなったのは五人しかいなかったそうです。 小学生1927人、中学生999人は無事だったというので、生存率は99.8%です。 亡くなった五人は病気などで学校を休んでいたケースで、学校にいた子どもは下級生の面倒を見ながらともに避難したので全員無事だったのです。 これは群馬大学大学院の片田敏孝教授と、それから彼のアドバイスを受け入れて学校での防災教育に取り組んできた釜石市の努力の成果でした。 三陸地方はもともと防災意識の高い場所ですが、防潮堤がある安心感と、警報が発令されてもやってきた津波は数十センチ程度しかない「オオカミ少年」状態を繰り返しているうちに、人々の間に油断が広がっていました。 2003年に住民の防災意識調査をして「本当に津波がきたときは指示された場所に行けばいい」「堤防があるから大丈夫」という意識が広がっていることに片田さんは危機感を覚えたそうです。 そこで自治体に働きかけ、これに釜石市が賛同したことで、2006年から釜石市の小中学校で防災教育を行うようになりました。 釜石市の小中学生の生存率99.8%という数字は、まさしくこのような教育を行ってきた成果なのです。 片田さんが子どもたちに教えたのは、とにかく「逃げろ」ということでした。 じつは最初に子どもに「一人でいるときに大きな地震が起こったらどうしますか?」とアンケートを行ったところ、返ってきた答えのほとんどは、「親が帰るまで待つ」「お母さんに電話する」というものだったそうです。 三陸地方には、地震があったら、とにかく周りのことなどお構いなしに、高台に逃げろという教えがあります。誰かが逃げるのに手を貸しているうちに「とも連れ」で死んでしまうようなケースが過去にも多々あったからです。また、津波で亡くなるのは、子どもの親というケースが非常に多いそうです。 それは地震の後、親が子どもを学校などに迎えに行っている間に津波に巻き込まれることが多いからです。 そのことを踏まえて、片田さんは子どもたちに「これだけ訓練・準備をしているのだから、自分は絶対に逃げるということを伝えなさい」と教えていたようです。 親の避難が子どものことを気にして遅れるということがないようにするためです。 さらに、子どもたちに津波の恐ろしさを写真や映像を使って繰り返し伝えるとともに、実際に避難するときは、その時に自分たちができる最善を尽くすことを重点において教えたそうです。 たとえばハザードマップは、災害のときにどの地域がどのような被害に遭うかをシュミレーションで示したたいへん便利なものです。しかし実際に津波がきたとき、ハザードマップが示す津波より大きいか小さいかは、そのときにならないとわかりません。 避難場所に指定されている場所も、場合によっては安全でないかもしれない。 そうしたとき自分で判断し、行動することの大切さを教えたのです。 そして今回の津波の際、鵜住居町の小中学生は、最初は予定されていた避難場所に逃げましたが、状況を見て自主的にもっと高所まで避難したのでした。・・・ やはり最大のポイントは「自分で判断して行動する」ということです。 「状況を観察しながら自分で判断して行動する」ことは、いまの時代を生きる私たち一人ひとりが、身につけておくべき基本的な考え方だと私は思っています。 おわりに(p.192-194) 人はだれでもまちがえます。 それはどんなに優秀な人であろうと同じです。 頭ではわかっているのに、実際の行動が伴わないことだってよくあります。・・・・ 同じような失敗やミスをいつも繰り返しているのが人間なのです。 人間の歴史は、被災の歴史でもあります。 私たちはこれまでに何度も、地震・津波・台風などの自然災害に見舞われています。 そして忘れっぽい人間は、被災した直後こそ注意深くなるものの、平穏な日々が続くとそのうちにだんだんと危険を見なくなります。 そして危ないことを平気でするようになって、再び自然災害がやってきたときに手痛い目に遭うということを繰り返しています。 これは人間の愚かさに起因しています。 わかっているのに、知っているのに、同じような失敗を繰り返しているのです。 これはあまり気持ちのいいものではありません。・・・ 人間の特性を理解し、そのことを数のうちにいれて判断し、行動するようになれば、この種の失敗やミスは防ぐことができます。 避けることのできない自然災害と、原発事故という大きな失敗に対する自分なりのものの見方・考え方です。・・・・・ 片田先生に学んだ釜石の小中学生のように、人間の困った特性にあまり影響されることなく、判断や行動を自分自身の力でできるような人が増えたら、確実にこの社会は非常に豊かで力強いものになるでしょう。 最後は自分の眼で見て、自分の頭で考え、判断し、行動できる人間が強いのです。・・・ 2011年6月6日 畑村洋太郎 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年02月12日 19時53分56秒
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