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カテゴリ:木谷ポルソッタ倶楽部ほか
2009年03月15日
「学年始めの挨拶」(森信三修身教授録より) ○森信三先生とはどうのような人か。 明治二九年愛知県生まれ、大正一二年京大哲学科に入学、西田幾太郎に師事する。 昭和一四年満州の建国大学に赴任、敗戦により二一年帰国。 昭和二八年神戸大学教育学部教授に就任。 同大学退官後の昭和40年には神戸海星女子学院大学教授に就任。 昭和50年「実践人の家」建設。1992年(平成4年)逝去。 おもな著書に『修身教授録』『哲学叙説』『恩の形而上学』などがある。 ちなみに「信三」は戸籍上は「のぶぞう」と読み、「しんぞう」は通称である。 ○森信三さんが昭和一二年大坂天王寺師範学校で行った講義をまとめた「修身教授録」の最初の講義から。 「さて今年はご縁があって、諸君たちの組の修身を受け持つことになりましたが、すべてわれわれが教えたり教えられる間柄になるということは、考えてみれば実に深い因縁といっていいでしょう。 と申しますのも、この地球上には数十億の人間が住んでいますが、それはしばらくおくとしても、日本人だけ考えても、そのうちわれわれが一生の間に知り合う人間の数はきわめて僅かでしょう。いわんや一生の間に、その面影を忘れない程度に知り合う間柄となると、いかにそれが少ないかということは、諸君らが過去十数年の生活を反省してみられたら、自ずと明らかなことだと思います。 それらいろいろの人と人との関係においても、特に師弟関係というものは、一種独特の関係であって、そこには何ら利害の打算というものがないのです。実際世に師弟の関係ほどある意味で純粋な間柄はないといえましょう。(略) 私の考えによりますと、われわれ人間というものは、すべて自分に対して必然的に与えられた事柄については、ひとり好悪の感情をもって対しないのみか、さらに一歩をすすめて、これを「天命」として謹んでお受けをするということが大切だと思うのです。同時にかくして初めてわれわれは、真に絶対的態度に立つことができると思うのです。 ですからわれわれも、ここにこうして一年間を共に学ぶことになったということは、天の命として謹んでこれをお受けし、ひとり好悪を言わないのみか、これこそ真に自分を生かすゆえんとして、その最善を尽くすべきだと思うのです。 ところで今私の申したことは、ひとり学科の担任というようなことのみならず、広くは人生におけるわれわれの態度の上にも言い得ることであって、われわれはこの世において、わが身の上に起こる一切の事柄に対して、すべてこのような態度をもって臨むべきだと思うべきだと思うのです。 ですからたとえば親が病気になったとか、あるいは家が破産して上級学校へ行けなくなったとか、およそ我が身に降りかかる事柄は、すべてこれを天の命として慎んでお受けをするということが、われわれにとっては最前の人生態度と思うわけです。ですからこの根本の一点に心の腰のすわらない間は、人間も真に確立したとは言えないと思うわけです。したがってここにわれわれの修養の根本目標があると共に、また、真の人間生活は、ここからして出発すると考えているのです。 さて以上のことを、言い換えれば、われわれはすべてわが身に連なるもろもろの因縁をかたじけなく思って、これをおろそかにしてはならぬということです。(略) ですからこの深い因縁をかたじけなく思って、共にこの一年間を学ばねばならぬと思うのです。では、ここに学年始めに当たり、諸君の組を受け持つことになった御縁を感謝しつつ、ご挨拶の言葉とする次第です。」 森信三先生の話が終わった時、生徒の一人が質問がありますと立ち上がった。 『先生は僕らの組を受け持つことは、天の命だと思うと言われましたが、僕にはどうもそういうふうには信じられませんが』と言った。 すると先生はニコリとされて『それはそうでしょうよ。諸君らは若くてまだ人生の苦労というものをしていないんですから。私がああ言ったのは、主として私自身の気持ちを申したのです。ただね、そう信じられる人と、信じられない人との人生の生き方が、将来どう違ってくるかということだけは考えてみて下さい』と微笑したまま礼をされて教室を去られた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年04月29日 14時58分56秒
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