GAIA

遠江国報徳社副社長伊藤七郎平

「ああ当森町報徳社員の実効は本州各社（報徳社）に冠たり。
おそらくは県下三州（遠江、駿河、伊豆）当社の右に出るもの有らんや。
然れども希（ねがわ）くは善に誇ること無からんことを。
易に曰く　
天道盈（みて）るを虧（か）いて謙に益す。
地道は盈るを変じて謙に流す。
鬼神盈（みて）るを害して、しかして謙に福す。
人道はみてるを恵んで謙を好す、と。」




３　森町報徳館開館式　祝辞〔報徳雑誌第７号p31所載〕
遠江国周智郡森町報徳館新築成ル其構造巨大ニシテ又堅牢壮麗聊カ間然スルコトナキナリ。抑森町報徳社ノ義ハ嘉永ノ始メ故新村豊作氏相模ノ人安居院先生ヨリ報徳ノ教ヲ受ケ有志ヲ集メテ一社ヲ結フニ起源シ後ニ相州小田原報徳社員福山滝助先生ヲ招聘シテ教ヲ受ルコト数年。氏ハ小田原報徳社員中屈指ノ先生ニシテ数年間同社員ヲ薫陶至レリト誠心金鉄ノ如ク且年々磐城国石神村興復社ニ推参当ノ二宮先生及随身諸士ノ教ヲ受ケ道ノ奥旨ヲ了知セリ。森町報徳社ヲ根拠トシテ遠州各地を巡回シ誠心以テ社員ヲ誘導スルコト数十年撓マズ小田原報徳社ノ仕法ヲ移シテ数十社ヲ結ブ。号ケテ報徳遠譲社ト称ス。森町社員合同一致福山氏ノ事業ヲ補益スル、又少カラズト云。当社員三拾名社員多カラズト雖ドモ教ヲ聞ノ久キ誠心鞏固実業ヲ勉励シ商業ノ盛大ヲ致シ報徳金ヲ運転シ競テ積金ヲ増殖シ現在一社ノ報徳積金三千余円積米六拾余斛ノ巨額ニ達シ加之ニ余財ヲ以テ斯ノ如キ巨館ヲ新築スルハ本州報徳町村社ノ嚆矢トス。実に当国各町村社ノ模範トスルニ足ル。本日ヲ卜シテ開館ノ典ヲ挙ク静岡県知事公代理参事官閣下及ビ各官紳士ノ来臨ヲ辱フシテ優渥ナル祝辞ヲ賜ヒ不肖七郎平其席末ヲ汚ス。何ノ栄カ之レニ加ン。否独七郎平ノ栄誉ノミナラズ遠江報徳社ノ声誉タルナリ。終ニ望ンデ一言ヲ伸ブ。嗚呼当森町報徳社員ノ実効ハ本州各社ニ冠タリ。恐クハ県下三州当社ノ右ニ出ルモノ有ランヤ。然レドモ希クハ善ニ誇ルコト無ランコトヲ。易曰天道欠盈而益謙地道変盈而洗謙鬼神害盈而福謙人道恵盈而好謙〔天道盈（みて）るを虧（か）いて謙に益す。地道は盈るを変じて謙に流す。鬼神盈るを害して而して謙に福す。人道はみてるを恵んで謙を好す〕ト。聊カ蕪辞ヲ述テ本日ノ祝辞トナス
明治二十五年七月二十四日　遠江国報徳社副社長伊藤七郎平