カテゴリ:★ 子供 ★
夕暮れがせまる街の広い歩道に、私は自転車を走らせていた。 幸い、歩行者も自転車も他にはなく、私はママチャリをがんがん飛ばす。 後ろの子供用座席には、末娘の紗絵。 たった今、スイミングスクールが終わって濡れた髪をタオル帽子に包んでいる。5歳。 一人目の子供だったら、かわいい盛りだろうか。 でも今の私の頭の中に、紗絵のことは全くない。 家にはこれから急いでピアノ教室に送っていかなければならない、10歳の長女・芽衣がいる。 スイミングが終わった紗絵を10分で着替えさせ、10分で家に戻り、 その5分後には芽衣をピアノに送らなければ間に合わない、いつもの木曜日。 今日は紗絵がなかなかプールから上がってこなくて、遅くなってしまった。早く帰らなきゃ。 赤信号に阻まれ一時停止すると、紗絵が突然、 「今年、サンタさんにお願いするものが決まったんだ。」 と言う。熱くなった頭が少しだけ冷えて、興味をひかれた。 「へー。何を頼むの?」 「ええとね、本物のお星様。」 これは驚いた。なんと意表をつくお願いだろう。 てっきりTVアニメのキャラクターのおもちゃだと思っていたのに。 どうしてそれに決めたわけ?と聞くと、 「だって、お店で買えるものなんて、面白くないじゃない。」 と言う。なるほど。 「でも、お星様って、遠くにあるじゃない? もしかしたら、紗絵が見ている、ビーズみたいな小さな感じより、 近くに来たら意外と大きいかもしれないよ?」 と言うと、 「そんなのわかってるよー。」 ばかにしないで、という顔で笑う。 「どのくらいの大きさだと思う?実際のところ。」 と聞くと、自分の小さな握りこぶしを差し出して、 「このくらいは、あると思うよ。」 と言う。そして、 「魔法を使うときは、きっともう少し・・このくらいは、大きくなると思うんだ。」 と、両手を広げて大きな『マル』をつくってみせた。 7センチくらいから50センチくらいまで、直径を変えて輝く本物の星。何て素晴らしいんだろう。 私はキラキラ輝く魔法の星を、自分も欲しい、と思った。 『・・君にはもうじゅうぶんにあげただろう?』 ふいに、頭の中に、はっきりとした男の人の声を聞く。子供の頃、いつもクリスマスにおもちゃを持ってきてくれた人だ。一体どんな人だろう、と想像するばかりで、一度も会えないまま大きくなって、小学校に上がって。それからあんなの迷信だった、本当はいなかったんだ、と悲しくなって、私は子供時代に別れを告げた。 少しずつ大人になりながら、私は子供時代に、魔法はすべて置いてきたと思っていた。 でも初めての子供が生まれて、最初のクリスマスを迎えたとき、まったく予想もしなかったのに、彼と会うことができた。あんなに会いたかった子供の頃は、決して会えなかったのに。 『わたしを覚えているかい?昔のよしみで、頼みたいことがあるんだが。』と言われた声を、今でもはっきり覚えている。私が日常生活に振り回される、つまらない大人になってしまっても、彼は私のことを忘れないでいてくれた。 私は心の中で訴えた。 『でも、本物のお星様は、一度も、お願いしたことないもん。欲しいな。』 すると苦笑したふうの彼が言う。 『それは、この子の心が君よりずっと上にあるということだよ。せいぜい心して育てることだね。』 やっぱりだめだよね。私はちょっとがっかりした。 それでも『はい、大切に育てます』と素直に彼の言葉を心に刻む。 この子は未来からの預かりものだ。私なんかより、ずっと高いところまで上っていく可能性を秘めている。 言われなきゃ、忘れてるなんて、私は本当にたいした親じゃない。 自転車の後部席では、紗絵が夢見るように、熱をいれて、 『いかに本物のお星様がすばらしいか』を語っている。 私はもう一度、ダメ押しをするように、彼にお願いをする。 もらったオレンジ色のクマの縫いぐるみは、大きすぎて隠れやしないのに、 無理やり左手で背中に隠し、私はすました顔で右の手のひらを差し出す。 彼の前では、私はいつも小さな女の子だ。実家でぼろぼろになって、親が捨てられずに困っている、汚いクマのぬいぐるみは、いつもふかふかでぴかぴかのまま、私の手の中にある。 あまりにわがままで厚かましい私に、彼は 『少しだけだよ。』 と、困ったように笑いながら、それでも私の右の手のひらに、小さな、ビーズのような強く光るひとかけらを、そっとのせてくれた。 私は心の中で『ありがとう』と言うと、その光の粒を抱きしめる。 それは胸の中であたたかく輝いて、強い魔法の力を放つ。紗絵からの、魔法のおすそ分けだ。 そう、私は知っている。この魔法の星のかけらが一番強く輝くのは、今年のクリスマスまで。 紗絵の魔法が続くあいだだけ、特別な光を放つ星のかけら。 紗絵の、”大きいほうの星”は、彼女自身に吸収されて、また別の夢に生まれ変わり・・ いつか遠い未来に、本当に彼女が困ったときに、魔法の力を発揮するだろう。 黄昏色の空を背景に、信号が青に変わる。 「ねえ、サンタさんからお星様もらったらさ、ちょっとだけ母さんにも貸してくれない?」 自転車のペダルに足を掛けたまま、振り返ってそう言うと、 紗絵の顔がぱっと輝いた。 「いいよ!貸してあげる!芽衣にも、お友達にも、誰にでも貸してあげるんだー」 あまりの気前の良さに、私は思わず笑ってしまった。 喜びは、誰にでも分けずにいられない性格は、神様から彼女への、一番の贈り物だ。 人生に、奇跡は起こる。何度でも。 不思議な魔法のシーズンが、もうすぐやってくる。 (November.14.2003) ★ お気持ちに余裕のある方へお願い ★ 私のブログの、もうひとつのつぶやきにも 目を通していただけるとうれしく思います。 ↓ ↓ ↓ ◆ いのり。 ◆ ↑ ↑ ↑ 文字クリックで、このブログ内の日記に跳びます。 お心に留まるものがありましたら 1クリック頂けるとうれしいです。 ↓ ↓ ↓ ありがとう! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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素敵なお話...
でも、ちょっと、裏を返せば、重いかも??? そう、しっかり夢を持って生きないと...ですね。 ボンは... スキー場がほしいそうで... は???でした。 (2010/12/25 08:59:08 PM)
HANG ZEROさん
>素敵なお話... >でも、ちょっと、裏を返せば、重いかも??? >そう、しっかり夢を持って生きないと...ですね。 >ボンは... >スキー場がほしいそうで... >は???でした。 ----- お返事が遅くなってすみません。 これは、現在13歳の娘が5歳だったとき、実際にあのようなシチュエーションで交わした会話を、物語風のテイストを加えて書いてみたものです。 思えば、スキー場が欲しいボンくんとちょうど同じくらいの年齢のときの出来事でした(幼稚園年長さんの冬)。 子供との日々って、まさにドラマのよう。 子供たちの無邪気な夢を守るために、大人は未来を守るという、重い約束を果たしていかなければなりません。 サンタさんからもらった魔法を胸に、頑張りましょう。 (2011/01/06 02:22:52 PM) |
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Comments
須賀惣太郎@
Re:◆アオサギ~不気味に増える、大型の鳥。(06/12)
やっぱり増えている感じしますよね。 私が…
ポールワトソン顔面粉砕太郎@
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LUSH日本支部の意思に拘わらず売り上げは…
みやの@
Re:●ハムスターの死(舌の腫大という奇病)●(01/16)
はじめまして 私は今約1歳半になるプティ…
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Re:●ハムスターの死(舌の腫大という奇病)●(01/16)
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Re:●ハムスターの死(舌の腫大という奇病)●(01/16)
昨年9月に生まれた、初めてのハムスターを…
ぷり県@
Re:◆梅が咲く、早春の靖国神社へ。(02/05)
古い記事にメッセージを失礼します。靖國…
しおん★☆@
Re[1]:◆オープン前のメッツァビレッジへ。訪問レポ(11/09)
ふぁみり〜キャンパーさんへ 私が見た現…
しおん★☆@
Re[1]:◆オープン前のメッツァビレッジへ。訪問レポ(11/09)
HANG ZEROさんへ そうそう、このカップの…
ふぁみり〜キャンパー@
Re:◆オープン前のメッツァビレッジへ。訪問レポ(11/09)
キャンプ場もあるんですか・・・ 確かにキ…
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