日々にあらたに！

尾を引くリーマンショック





　2010年4月1日の木曜日。昼のテレビのニュースで、大手家電メーカーの入社式の様子が映し出される。だが今年、ABC株式会社に入社式はない。一昨年のリーマンショックに端を発した世界同時不況の陰が長く尾を引き、新入社員がゼロだからだ。ABC株式会社の2009年度の経営成績は、2008年の秋から年末にかけて起こったリーマンショックの影響を、それほど受けなかった。前年度微減でなんとか持ちこたえた。半年分ほどの先約があったからである。

　しかし2010年に入って様子が違う。年明け早々、専務の山田豪太は、営業担当を呼んだ。
営業担当の口からは、いつもの雄弁さは陰を潜め、訥々と語り始めた。昨年12月から、得意先のすべてに明らかな変調が見られ始めたと言う。既に決まっていた3月までの引き取り計画変更の申し入れを受けているというのだ。「やはりきたか！」豪太は、経理課長を呼んで、早急に今年度計画の見直しをするよう命じた。

　一週間ほどして経理課長は、2009年度の予想数字を持ってきた。豪太は先ず損益計算書の売上高の数字を見て目を疑った。8億円の計画が7.31億円に落ちているのだ。2009年度は、4半期各2億円の計画で、昨年12月の第3クォーターまでは、計画通り進んで6億円に達していた。

　ということは、今年1-3月の第4クォーターの売上げが1.31億円にしかならない計算になる。1-3月、2億円の計画に対して35%もの急激な落ち込みだ。今年度8億円の売上げを達成して、2～3年後には10億円突破だと意気込んでいた矢先、突然頭から冷水を浴びせかけられたような出来事。しかし現実は受け止めなければならない。

　豪太は今年44歳、父親の健太社長は69歳。来年は齢70を数える丁度その時に、会社は60周年を迎える。健太は早くから、これを節目に社長を退き、豪太に引き継ごうと決めていた。健太が、創業者である父の源太から、会社を引き継いだのが1986年。その時45歳だったから、二代目健太と同じ年齢で三代目豪太社長誕生となる。

　健太は、社長就任直後にやってきたバブルの栄華に酔いしれたのも束の間、1990年代は宴の後始末に追われた。それが一段落した2001年に、会社勤めの豪太を呼び戻した。この時、健太は60歳の還暦を迎え、豪太35歳。豪太は、中堅社員に成長し将来を属望されていた頃であり、会社を辞めることに少しく未練を残したが、健太は、豪太に10年後に社長を継がせると決めたからには、このタイミングで呼び戻すしかないと考えたのである。

　2010年、ABC株式会社に豪太が戻って9年経過。バブルの後遺症で一時5億円近くに落ち込んだ売上げが、21世紀に入って徐々に回復し、今年8億円をクリアできれば、近々10億円が望めるところにきた。こともあろうにそのタイミングでこの未曾有の事態。しかし似たようなことは過去にもあったはず。その時どうやって、創業者の祖父や社長の父は、乗り切ったのだろう？豪太の脳裏を、ABC株式会社の創業当初からの歴史が駆け巡った。・・・・・（つづく）


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