カテゴリ:民衆の歴史
マリア信仰の形成(10)
カトリック教会が残した歴史上の汚点は、数え上げればいくつも出てきます。ただ、その中で最大のものをあげるとすれば、私は迷わず魔女狩りをあげます。詳しいことは別の機会に譲りますが、ローマ教皇庁によって、魔女狩りが解禁されたのが14世紀前半だったこと、魔女狩りの最盛期が16世紀~17世紀の前半だったことの、2点を記しておきます。 中世ヨーロッパでは、王権よりも教権が優勢だったのですが、それでも、教会の支配は支配層にしか及ばず、民衆はカトリックの神よりも、土着の神々を信じていたのです。唯一の神を信奉するカトリックの教義が、隅々まで浸透しているとしたら、妖精たちや地域の守り神の登場する西欧の民話や伝承が、語り伝えられることはありえませんよね。 そうなんです。教会は民衆と妥協し、民衆の信ずる土着の神々を、キリスト教の聖人に同化させる作戦で。支配層から民衆へと信仰を広める作戦を取っていたのです。さの作業が多少進んだところで、キリスト教の分派、教皇庁が排除することを目的に「異端」のレッテルを貼った分派を駆逐するために、編み出した戦術が魔女狩りでした。 最初はそろりそろりと、そして、15世紀中頃から、魔女狩り攻勢は本格化していきます。これは、教皇庁の言うことを聞かぬものは、魔女裁判にかけて、魔女として処刑するぞと言う、恐怖による信仰の強制です。しかし、人は恐怖に対しては面従腹背の態度をとるものです。心の支配が目的の宗教にとって、これでは目的は達せられません。 恐怖によって、「異端」を排除した後に、どのようにして民衆に教皇庁の教えを信じさせるのか。ここに大きな問題がありました。魔女狩りに眉を潜める教皇庁の良識派は、ここぞとばかりに、民衆教化のプランを練り、ここに登場したのが、聖母マリアの母性を強調することだったのです。とりわけ、北イタリアから南フランスにかけての一帯は、異端の信仰の強い所でしたが、小さな大人と称された6~14歳くらいの子ども達にとって、父よりも一緒に過ごす時間の多い、母の影響力が強いことに彼らは注目したのです。 成人の男たちを教化するよりも、母親と小さな大人たちを教化することが大事だと気付いた彼らは、農村女性たちの母性をくすぐる作戦に出たのです。教会は母なる女性をターゲットに、その強化に努めよ。さすれば、子ども達もまた母の影響を受けて、改心するに違いない。女性を教化して、その影響を家族に及ぼしめるという方針が、ここに明確に定められたのです。15世紀も中頃に近づいた頃でした。こうして母なる女性たちの母性に訴えるために、教会の手によって、マリアの聖性と母性が強調されることになったのです。 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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「母性」が足らない女性は魔女に仕立て上げられたんですね。
現在なら殆どが「魔女」かも!?(^^;) (2009.01.26 17:31:43)
心の支配、宗教。何と壮大な仕掛けか、布教の目的の為に。 女性達が布教の手段に使われた...。興味深い事は、女性達は手段と認識出来なかった。むしろ育てる本能、これを目覚めさせる結果と成った。そして、家族の幸せに伴う悩み迷い、これらの救いを求める事に成った。土着の神々とも対立はしない。 三つ子の魂100迄も 白を黒に染める 鉄は熱いうちに打て 将を射んとすれば馬を撃て 何か相通ずる物を感じえません。 (2009.01.26 17:43:06)
danmama313さん
>「母性」が足らない女性は魔女に仕立て上げられたんですね。 >現在なら殆どが「魔女」かも!?(^^;) ----- いつも、一番のコメント有難うございます。母性が足りないのではなく、教皇庁が正統とする教義を受け入れない人たちをかなり強引に「魔女」としたのです。 ただ、現在は魔女がいっぱいいそうですね (苦笑)。 ザビ (2009.01.26 21:12:20)
山デジさん
>心の支配、宗教。何と壮大な仕掛けか、布教の目的の為に。 > これがカトリックの恐るべき巧妙さなのですね。 >女性達が布教の手段に使われた...。興味深い事は、女性達は手段と認識出来なかった。むしろ育てる本能、これを目覚めさせる結果と成った。 出来るはずがありません。貶められる卑しき存在からようやく解放され、その母性をくすぐられたのですから…。 喜んで聖母マリアを崇め、子にもそれを要求します。 そして、家族の幸せに伴う悩み迷い、これらの救いを求める事に成った。土着の神々とも対立はしない。 >三つ子の魂100迄も >白を黒に染める >鉄は熱いうちに打て >将を射んとすれば馬を撃て >何か相通ずる物を感じえません。 ----- 宗教と言うのは、すごいものですね。何でも利用できるものはする。とても真似が出来ません。 ザビ (2009.01.26 21:18:13)
空帆さん
>怖いものです。映画といい小説といい >この疑心暗鬼みたいなものは・・・・ >日本の戦争中でだって、似たような事も >あったのかもしれません ----- あったと思います。しかし、あの魔女狩りほど、凄まじいものでは、なかったと思います。それほど凄まじいです。 ですから、カトリックは、あまり触れてもらいたくないので、必死に蓋をしようとしています。 ザビ (2009.01.26 21:24:04)
少数の男性も魔女狩りの犠牲になったそうですね。
この響きそのものが恐ろしいです。><; (2009.01.26 22:28:47)
異端排除の魔女狩りの後の、聖母出現ですか。
教皇はじめ男ばかりの階級社会だった教会組織には、結構な決断だったんじゃないでしょうか。処女性が強調され…ってのもなるほど重要ですね。 壮大なる計画の仕掛け人がいたのでしょうか。「支配の魔力」こそ恐ろしい…。 (2009.01.26 23:45:28)
ピンコロ5656さん
>少数の男性も魔女狩りの犠牲になったそうですね。 >この響きそのものが恐ろしいです。><; ----- 魔女は女性に限りません。悪魔は男に限られるようですが… 男性が魔女裁判で裁かれた記録もいくつか残っています。 ザビ (2009.01.27 01:13:07)
lemidoriさん
>異端排除の魔女狩りの後の、聖母出現ですか。 >教皇はじめ男ばかりの階級社会だった教会組織には、結構な決断だったんじゃないでしょうか。処女性が強調され…ってのもなるほど重要ですね。 > 処女にして母を強調していては、修道女しか救済されません。母であることは、行為の結果でもありますから、庶民の女性を救済する別の論理を持ち込まないと、母なる女性を教会の側に取り込み、宣教の先兵に仕立てることが出来なかったのですね。 >壮大なる計画の仕掛け人がいたのでしょうか。「支配の魔力」こそ恐ろしい…。 ----- こういう人材をそろえたところが、キリスト教のすごいところですね。日本にやってきた宣教師たちも、かなり優秀な人材だったように思います。 ザビ (2009.01.27 01:19:33)
オノノコマチ3064さん
>3歳児神話とマリア信仰って関係があるのでしょうか? >3歳までは母親の元でっていうのは >今も結構な勢力を持って信じられているようですが ----- これは別です。 途中で、当時の赤子の多くが、母親の手で育てられなかった話を書きましたね。そのことが問題視され、批判されるようになった18世紀の後半以降に出てくる考え方です。ルソーの影響力と考えても良いですよ。 ザビ (2009.01.27 12:40:18)
成程! 『宗教は人間を飼いならす手段だ』と、司馬遼太郎が云ってますが、そういう事だったのですねー。良く分かりました。
ジュネーヴにプロテスタントの本部がありますが、ガイド曰く『カソリックが余りにもひどいので、プロテスタントができた』と云ってました。 (2009.01.27 15:42:17)
Mrs. Lindaさん
>成程! 『宗教は人間を飼いならす手段だ』と、司馬遼太郎が云ってますが、そういう事だったのですねー。良く分かりました。 > ナポレオン曰く「私はキリスト降誕の奇跡は認めないが、人民統治の奇跡は認める。宗教は使える」と言っていますよ。 >ジュネーヴにプロテスタントの本部がありますが、ガイド曰く『カソリックが余りにもひどいので、プロテスタントができた』と云ってました。 ----- これは、あまりにもひどいのではなく、ひどかったのでが正しいですね。 プロテスタントに押されて、カトリックも改心しますから…。 ジュネーヴはカルヴァンの根拠地でした。イングランドのカルヴァン派信者が、ピューリタンです。 ザビ (2009.01.27 15:47:09) |
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