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テーマ:読書(8206)
カテゴリ:本日読了
2021/10/10/日曜日/朝のうち小雨晴、風ややあり
〈DATA〉 早川書房/1978年出版(本国1963年) ジョン・ル・カレ著/宇野利泰 訳 〈私的読書メーター〉 〈タイトルと本作内容は非常に意味を持つんだろうなぁ英語母語の人には。と思えど貧弱な私の英語力。決してstep inside and warm up を伺えない、もう一つの壁があり、それは人種、歴史宗教の壁、の読みに留まる。ベルリンの壁崩壊からぐるり一世代過ぎ、(東)はこぞって個人の豊かな暮らしへEU奔流。それももいつしか自国主義、権威国家へ飛沫しぶく今となっては東西冷戦や諜報活動は既に古典世界。国家間よりも国家を凌ぐ巨大産業の知的財産諜報活動が今日的だろう。がそれ故に尚、斃れていく人の真実と人間、が光る。〉 物語の中で愚か故に尊い愛情豊かなリズというコミュニストが配役されている。彼女は英国の共産党支部から東ドイツの視察員に選ばれ赴く場面がある。尤もミステリーにおいて偶然の出来事、産物は殆どない訳で、その背景に驚くべき仕掛けがあるのだが、未だ彼女はそれを知らない。 彼女という人間性をよく活写しているのが、東ドイツ滞在中の、貧しい一家の暮らしの中に見出す印象をかこつところ。 「…僧団内の生活みたい、とリズは思った。修道院とかキブツとか、そういったものでの生活の楽しさ。腹はいっぱいにしないほうが、世の中がよくなるように感じられる。」 あー、これがリズなのだ。それを理解した、若しくは必要としたのがリーマスでありフィードラーなのだ。 これは最近行った展覧会に展示されていたミリアム・カーンの絵。この絵を観て何となく心に渦巻いたユダヤの表象。こんなシンプルで一目で伝える力量、果たしてカーンはユダヤ人だった。 『寒い国から帰ってきたスパイ』は、英国諜報員のリーマスと親子ほど歳の開きのリズがほんのひととき男と女として心を通わす。 理屈を超えて求めて止まない何か。人生一代二代で即席に出来上がるものとは異なる何か。どうしようもなく惹かれる血というか。それを分け合うユダヤ人の兄弟、姉妹の物語でもあった。 かつてリズと愛称された美人女優がいた。誰だったか、リズの目はバイオレットとグリーンなのよ!と聞いたことを思い出す。私は長く彼女はユダヤの血が入った人、という印象を持っていたけど真実は分からない。彼女は何度も結婚離婚を重ね、その内2度繰り返したお相手リチャードバートンが、映画でリーマスを演じている、のもなんやら。 ところで、小三治の訃報に今晩ふれた。今月のチケットを買っていたのに。悲しい。小三治曰く「人間の生きる永遠のテーマってのをきちっと押さえてますから落語ってね。人間として生きることがいちばん大切で素敵なんだ。」 あーこれですとも!これ。リーマスも最後は人間として死んだ。リズのいない世界で彼は人間として生きられなかった、そう思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.10.12 07:52:43
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