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弁護士YA日記

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2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2022.08.15
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カテゴリ:読書日記
先日、以前からずっと行きたかった広島平和記念資料館を初めて訪問しました。
展示物のひとつひとつから放たれる声、叫びが、私の心に突き刺さり、今も離れません。これからも、1945年8月6日8時15分、あの瞬間に人生が変わってしまったひとりひとりの方々に想いを馳せ続けるでしょう。

この資料館の存在価値については、志賀賢治氏(前広島平和記念資料館館長)の「広島平和記念資料館は問いかける」(2020年 岩波書店)を引用させて頂きながらご紹介させて頂きたいと思います。

まず、資料館の性質ですが、特に本館は、原爆被害を「人間的悲惨」として伝えることに主眼を置いており、本物、実物にこだわった展示がなされています。展示資料の中心を形成するのは、「遺品」であり、「いつ、誰が、どこで、どのように被爆し、どのようにお亡くなりになったのか、丁寧に聞き取って、詳細な記録を残し、識別コードをふった遺品とともに保管し、データベースに登録」という膨大な手間を経て、「遺族の記憶を資料館の記録にする」(本書121頁)という作業が日々行われています。

​それにしても、「遺族の記憶を資料館の記録にする」とは何と深い、この種の歴史を保管する役割を期待される博物館の本質的使命を体現した言葉でしょうか。私たちの職業にもどこか通じる姿勢であるような気がして感銘を受けました。​

もっとも、このような展示になるまでに、本当に紆余曲折の歴史があったようです。
​しかし、最終的には、「原爆を『威力』で語る際に使用されるのは、数字の大きさです。死者も数字の大きさで語られることがほとんどです。しかし、『人間的悲惨』を語る場合に必要なのは、一人ひとりの人間がどのように苦しんだか、すなわち『固有名詞』であると確信」(本書11頁)された志賀氏の狙いは、見事達成されていると思います。​

​だからこそ、訪問者には、「持てる感性すべてを動員して、被爆資料、遺品が語る声なき声を聞き取って、感じ取っていただければ幸いです。」(本書34頁)、「単に順路に従って通り過ぎるのではなく、一つひとつに立ち止まり、真摯に向きあい、五感を研ぎ澄ませて全身で感じ、知力を駆使して想像し、思考力の限りを尽くして考え抜く。」(本書217頁)といった言葉に表されるような真摯な鑑賞態度が自然と求められます。​

​「広島平和記念資料館は問いかける」という本書の題名の由来となったと思われる言葉も圧巻です。それは、ワシントンDCにある米国ホロコースト記念博物館のリーフレットの表紙の言葉で、This Museum is not an Answer. It is a Question.(この博物館に答えはありません。あるのは問い掛けなのです)(本書217頁)というものです。​

そう、私たちは、問いかけられているのです。その問いを全力で受け止めて全力で考えても簡単に答えは出ないけれど、それでも、その問いかけを、我がこととして、人生を歩んでいく責任を負ったような気がしました。

広島が第一目標となったのは、「爆風の効果を大きくする地形であり、原爆投下に最も適した都市と考えられていたこと」「捕虜収容所がない、つまり連合国軍の兵士がいないと考えられていたことも影響」(本書72頁)したようですが、ひとりひとりの被害に遭われた方々の立場からすると、原爆によって人生が変えられたことは、ただの偶然でしかなく必然ではありませんでした。それなのに、この世の地獄を体験されることになってしまった方々のために、私たちは、何ができるのでしょう。
原爆に限らないことですが、人生の惨禍は、誰にでも平等に訪れるものではない。でも、誰にでも訪れ得る。その不条理の中で、私たちは生きていかなければなりません。

帰路の新幹線、雨上がりの車窓から虹が見えました。地上と天をつなぐ七色の透き通る架け橋が余りにも現実離れした美しさで、涙が溢れてきました。この美しい虹が、あの日以降人生が変わってしまった全ての方々が、痛みも苦しみも憂いもなく笑顔で天に渡れる橋であってほしいと切実に祈りました。

この度の広島訪問にあたっては、心から敬愛する弁護士・友人である今田健太郎弁護士に全面的にお世話になりました。大変多忙な中、暖かく細やかなお心遣いを頂き、本当にありがとうございました。私も今田さんのような包容力、知性、優しさを備えた人間に.なれるよう精進しますので、今後ともどうぞ末永くお付き合い下さいませ。

また、本書は、ノースウェスタン大学教授・広島大学特任教授の宮崎広和先生に教えて頂きました。ご紹介に心から感謝申し上げます。ろう人形論争、原子力平和利用の展示、スミソニアン博物館企画の変遷、初代館長の想い、「とてつもない熱線を照射され、猛烈な爆風に叩きつけられ、凄まじい放射線を浴びたものばかり」(本書121頁)という資料保存の苦労等、この記事では到底紹介しきれなかった読み応えのある内容が濃縮されている名著でした。お勧めです。





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Last updated  2022.09.11 17:54:19



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