快挙、びわ湖ホール&日生劇場&藤原歌劇団&日本センチュリー交響楽団「ドン・パスクァーレ」
ひとつのオペラを、ホールや劇場、オペラカンパニーなど複数の主催者で共同制作することは、日本でもかなり一般的になってきました。 今年話題になった野田秀樹演出「フィガロの結婚」もそうでしたし、数年前からは、びわこ湖ホールと神奈川県民ホール、東京二期会が、毎年春に、ヴェルディやワーグナーの大作を中心に共同制作をしています。 兵庫の芸術文化センターも、金沢など北陸の複数のホールと組んで「椿姫」などを制作していました。複数の主催者、とくに地元の違う主催者が共同制作をすると、複数の場所で上演ができるわけで、その点でもとてもいいなと思います。 二期会との共同制作で業績を作ったびわ湖ホールが、今度は藤原歌劇団、そして日生劇場と組んでオペラ制作に乗り出すという。演目はドニゼッティの「ドン・パスクァーレ」。その記者会見が先日都内であったので、出かけてきました。 今回のプロダクション、いろんな意味でとても興味を惹かれます。書いてきたように、二期会と組んできたびわ湖ホールが、今回は藤原歌劇団と組んだこと(もちろん日生も入るわけですが)。演目がドニゼッティという、イタリア・ベルカントであること。それも「ドン・パスクァーレ」という、日本ではなかなか上演の機会がない、とはいえドニゼッティの名作のひとつであること、などなどです。 記者会見には、びわ湖ホールの館長や、ホールの芸術監督でありびわ湖公演の指揮をとる沼尻マエストロ、藤原歌劇団芸術監督で、日生でタイトルロールを歌う折江忠道氏、日生劇場の関係者らが登壇しました。 まず興味をそそられたのが、今回のプロダクションが、ドニゼッティの故郷ベルガモのドニゼッティ劇場のプロダクションであること。演出家のベッロット氏は、この劇場で始められたドニゼッティフェスティバルの創始者なのだそうですが、彼ももちろん来日します。ドニゼッティ劇場自体は来日もしていて、ランカトーレが出た「愛の妙薬」などとても素敵な公演でしたが、このような形でそこのプロダクションが日本で上演されるのは初めてではないでしょうか。 記者会見での話によると、今回の招聘には、ドニゼッティの研究家で、「日本ドニゼッティ協会」を立ち上げてがんばっていらっしゃる高橋和恵さんがからんでいるという。高橋さんはベルガモのフェスティバルにも長年通い、今回の公演についてはベッロット氏とも密に打ち合わせしているそうです。それで、納得できました。 また「ドン・パスクァーレ」という作品について、折江氏が、「セビリャの理髪師」に続く、イタリアのオペラブッファの重要な位置を占めている。その先に「ファルスタッフ」がある、と語っていたのも印象的でした。この作品は、折江氏によれば「言葉の嵐」という面もあるそう。上演には、とてもハードルが高い作品だそうです。上演の機会が少ないのは、それもあるのでしょうね。 ペーザロのロッシーニフェスティバルとも関係が深い藤原歌劇団、これを機会に、ベルガモとも関係が深まれば画期的ではないでしょうか。 藤原歌劇団としてのプログラミング、折江氏のなかでは今後数年間にわたる計画ができているようです。次年度はこの「ドンパス」をはじめ、「愛の妙薬」「カプレーティとモンテッキ」とベルカントの名作が並びますが、これらの演目は「若手歌手にふさわしい」面があるのだそう。その次の年度は、ベルカントでもやや重いものを実験的に、そしてその先はヴェルディにつなげていきたいのだそうです。とても、興味深い。 沼尻マエストロからは、びわ湖の「リゴレット」で藤原の合唱団と共演して共鳴したこと、など今回の共同制作へ至るまでの関係性、そして、ドイツのリューベック歌劇場で音楽監督をつとめる経験から、「いろんなものが飛んでくるような過激な演出が必要とされるドイツのオペラハウスで指揮するのはちょっと疲れる面もあり、イタリアの劇場でイタリアものをやるとほっとすると思うようになった」という体験談も披露されました(とても、想像がつきます。。。) さまざまな意味で新機軸といえる今回の「ドン・パスクァーレ」。日生劇場での公演(7月)は藤原のトップクラスを揃えた日本人による公演、びわ湖ホールでの公演(10月)は、日本人キャスト中心ですが、なんとエルネスト役にアントニーノ・シラクーザが出演します。プリマは、今や藤原のスターとして活躍する砂川涼子さん。両方とも、とても楽しみです。 http://www.nissaytheatre.or.jp/news/nissayopera2016・共同制作公演%E3%80%80オペ/