本のタイトル・作者
零の晩夏 [ 岩井 俊二 ]
本の目次・あらすじ
広告代理店に勤める私・八千草花音は、ある日後輩から一枚の写真を受け取る。
この人、先輩に似てません?
窓辺に佇む一人の高校生。写真と見紛う精緻な油絵。
「零」という画家の「晩夏」という作品だった。
その後、上司との不倫を疑われ会社を去った花音は、つてを頼り、季刊誌『絵と詩と歌』のトライアウト(研修生)となる。
任されたのは、顔も履歴も公表していない謎の画家・ナユタの特集記事。
その画家に描かれたモデルは、皆死に至るという死神伝説を持つ。
高校時代の後輩、加瀬と再会し、ナユタを巡る人々を取材する花音。
過去を辿るほど分からなくなる。ナユタは、いったい何者なのか。
その絵に隠された謎は、解き明かされることを待っている。
終わるために、始めるために――――救いを求めるように。
引用
なかなか理解に苦しむ世界観ではあったが、羨ましいと感じたのは事実だ。夕焼けを見て泣けるような感受性が手に入るなら私も是非欲しいものだと思った。
感想
2021年読書:187冊目
おすすめ度:★★★★
ああ、面白かった!
「スワロウテイル」「リリィ・シュシュのすべて」「花とアリス」などの映画監督であり、小説家でもある岩井俊二さん。
(NHKの東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」の作詞も手掛けている)
映画監督の人が書く小説って、説明的で台本っぽかったり、ぎこちなかったりするのだけど、この人の小説はもう、それだけですごく素晴らしいんですよ。
シンプルで、最近の小説にありがちな「ここで良いことを言ってやろう」みたいな気負いもなくて、そういう意味では見る人に解釈を委ねる映画的な映像を文字で書く。
『ウォーレスの人魚』もすごく良いので、ぜひ読んでほしい。
今回は謎の絵画、謎の画家をめぐる物語。
ミステリのようであり、恋愛小説のようであり。
加瀬くんが出てきた当たりで「ああ、こいつだな」ともう見当がついていて、コロボックルの話も「あー」と思い至っていたので、驚きは少なかったのだけど、すべてが明かされた後ではじめから読み返すと「そうか、だからここでこの人はこういう行動を・言動をとっていたのか」と分かって二度おいしい。
続きが読みたくてどんどん読んでしまった。
ああ、もっと岩井さんの小説読みたいな。
『番犬は庭を守る』『リップヴァンウィンクルの花嫁』『ヴァンパイア』も未読だ。
まず映画が好きで、その作品のノベライズだと思って読んだらご本人の小説が映画と同じくらい素晴らしくてびっくりしたのを覚えてる。
同じ世界観で、同じ目で、違う方法で物語を描いている。言葉で、映像で。
私の中で、岩井さんの世界はこの『零の晩夏』の表紙のブルー。
淡くて、くすんでいて、透明で、灰色がかっていて。
フィルター越しの世界。
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