赤虫村の怪談
愛媛県赤虫村の名家中須磨家の当主権太が、神木の樹上で全裸死体となって発見された。警察は殺人として捜査するも、現場に積もった雪の上には何者の足跡も残っていない。その息子真守は、施錠された蔵の中で自殺と思われる焼死を遂げたが、一抹の他殺の疑念があった。赤虫村に伝わる怪異伝承の取材に訪れていた怪談作家呻木叫子は、旅館「ぎやまん館」の娘で女子高生の金剛満璃に中須磨家連続不審死事件の調査を頼まれる。村に伝わる怪異伝承「無有」と「苦取神」への信仰は中須磨家と如何なる関わりがあるのか。しかし叫子が「蓮太」「九頭火」といった怪異譚の村人への聴き込みを行う途次、真守の妻沙羅までが死亡する。胸部を刃物で突いたその遺体の顔は真っ黒に塗られていた。やはり異形の神が、中須磨家を滅亡させんと祟っているのだろうか。は県警警部渡辺、若手刑事越智の協力を仰ぎ謎解きを試みるのだが.....--------------------ミステリーとしてもホラーとしても佳作としては評価し難い。苦取神(くとる)という名前、「渾沌」という語彙まで持ち出して、クトゥルフのネタどり?満載。「無有(ないある)」はニアルトラホテプのもじりらしいのは面白いけど、その他登場する人名や人外ともに無理があるネーミングだな。主人公の名までペンネームであれ呻木京子なんて、ギャグにしても滑っている。人間も人外もヘンな名前だらけで、漢検一級でも読めないような、難読な名称の羅列と、事件の進行と交互に挟まれる叫子の原稿を行ったり来たりで読みづらく、怪異譚の章は途中で読み飽きて集中力が途切れた。これぞネクロノミコンなみの読みにくさではないか探偵役も一人ではなく、多重推理のつもりかしれないがすっきり頭に入ってこない。ガジェットを散漫にとっ散らかしているだけで、ストーリーとしても推理としても、作者は 何を というより、どう 描きたかったのか判然としない。もっともJKの満璃のキャラは割と好き。JKと若手刑事が推理を巡らせて、古色蒼然たる糸を使った密室作成とか、ドローンを使うとのいかにもイマドキのトンデモ推理はご愛敬で楽しめたので良しとする。それに糸のトリックはいいセンいっていた。でも、警部や刑事が村の妖怪の存在を信じてるらしい設定ってのはミステリとして如何なものか。そうこうして、間違いの推理の挙句たどり着いた真相は、トンデモトリックどころか当たり前すぎる方法だった。これは肩透かし。意外な犯行状況と見せておいて、犯人も犯行方法も何ほども意外ではない。けれどこの犯人指摘も目くらましらしい。犯人を操った黒幕がいるらしいことをにおわせて、犯人は被疑者死亡として物語は終わる。あくまでにおわせだけど。とどのつまり作者はホラー風味を演出して終わらせたかったのか。でもこの幕の下ろし方も中途半端感がハンパない。と、ヘンな本を手にしてまったチラ裏はヘンな日本語で結ぶよりほかない。