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書評日記  パペッティア通信

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Oct 10, 2005
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あらためて、言うまでもないでしょう。
本日、ご紹介するのは、マンガ史にのこる名作、『虹色のトロツキー』です。極め付きのお薦め作品です。

内容を簡単にご紹介しましょう。

時は1930年代後半。舞台は、満州国。
日本陸軍・深見圭介中尉とモンゴル人女性のハーフ、主人公、ウンボルト。彼は、抗日救国運動に身を投じていたものの、その数奇な生まれから、ある計画への協力を命じられ、関東軍直々に赦免されてしまう。その計画とは、スターリンの仇敵として知られ、国外に亡命していたユダヤ人コミュニスト、トロツキーを満洲建国大学へ招聘する、というものであった。トロツキーの顔を知るがゆえに、泳がされるウンボルト。建国大学、特務機関、馬賊、興安軍(満州国のモンゴル系国軍)…彼は、身をよせる先をさまざまにかえながら、中国共産党、ソ連、満州国、日本のせめぎあう中国大陸をさまよう。川島芳子、李香蘭、石原莞爾、辻正信、田中隆吉、トロツキー…さまざまな出会いを重ねながら、運命の戦場、ノモンハンにたどりつくことになる…

「王道楽土」「五族協和」の満洲国。
そこへ、夢を紡いだ、多くの日本人の存在。

満洲にユダヤ人国家を作ろうとした大連特務機関長、安江大佐。
矛盾の塊のような、石原莞爾。
建国大学の志ある「学生」「教授」たち。

容赦なき「傀儡国家」を「闇」「現実」とすれば、「夢」と「光」。
夢破れた満洲国のノスタルジア。虚実ない交ぜの面白さ。そんなセピア色の部分も、濃厚に描かれているため、保守や右翼に属する人までも、この作品に好意をいだく方が多いようです。


しかし、その認識は正しいのでしょうか。
この作品は、そんな「夢」「光」の挫折をえがいた、セピア色の作品なんでしょうか。


この作品には、もう一人、影の主人公がいます。
かつての同志で、抗日運動の地下共産党員でもあった、ジャムツ
旧6巻の終わりで、ジャムツとウムボルトは、宿命の対決をおこなう。
その会話を見て欲しい。



ジャムツ
同志になれ。抗日救国の正義の戦いに戻るんだ。君の現在の立場はおおいに役に立つ。…ウルジン将軍の動静は知りたい。…。それと安江大佐の動き。滅びゆく侵略国家日本の当事者は、すべからく愚かであるべきだ。理性も分別もいらない。シベリアで反革命の犯罪を犯した二人は二重の意味で敵だ。


ウムボルト

だめだ。断る。

ジャムツ



ウムボルト

ジャムツ、日本が間違っている分だけ、たぶんキミは正しい。だけど、それ以上に正しくはない。共産党やソ連だけが正しさを独り占めすることは良くない。こんなにみんなが苦しんでいるのだから―――なおさら―――

ジャムツ

ははは…なんだ、それは。例の『良い日本人もいる』論か? ダメなんだよ! それではダメなんだ! それは闘う敵を見えなくするごまかしの論理だ! 歴史はそんな甘い立場を許さないぞ! 反革命に与することになるんだ、キミは!



ウムボルトは、毅然とジャムツに立ち向かう。この後で、銃声のこだまする中、ジャムツたち「ソ同盟的」「スターリン的」同志愛によって思想矯正された、麗花という女性を救い出すのだから、なおさらそのような描き方にみえる。

しかし、会話の詳細を見てほしい。なんと弱々しい、「価値相対主義」なのか。彼は、何ひとつ、日本を擁護していない。ジャムツの振りかざした審級「歴史」の前に、あらがうすべもなく、ただ赤子のように、受入を拒むだけだ。

そう、まさしく、「歴史」なのである。

ジャムツは、正義なのだ。
なぜ彼は正義たりうるのか?

開示されてゆく弁証法的過程=歴史と、その到達点である「共産主義」を「先どり」する「前衛党」に連なっているからに他ならない。その、前衛党の革命的な大義に従い、抗日運動に挺身しているからこそ、「正義」の判決を下せるのだ。その「先どりされた全体」から、ジャムツはウンボルトを批判する。曖昧な立場は、「反革命である」と断じられる。彼は、共産主義の大義に従う、献身的な前衛党員。私情をさしはさんでいるのではないし、彼が裁いているのではない。ウンボルトを裁くのは、鋼鉄(スターリン)のごとき、「歴史の法則」なのである。


本書の最後、ノモンハンの彷徨ののち、ウンボルトは延安へと流れ、中国共産党員となっていた衝撃の事実が明らかにされる。すでに、その「転向」は、6巻末においてとっくに予告されていた。『虹色のトロツキー』とは、ウンボルトの「転向」の物語なのだ。そして、満洲のあらゆる「夢」も「光」も、鋼鉄のごとき「歴史法則」の前に、否定的媒介として徹底的に収奪され蹂躙されるお話として、読まなければならない。これが、セピア色の物語であるはずがないではないか。


中国は、日本の「歴史認識」をよく問題にする。

中国は、傲慢だ!
その「歴史」も間違っているぞ!
中国への反発と日本の没落への不安。
ないまぜになった負の感情は、中国のもつ「歴史像」についての細部をあげつらう批判になりやすい。

そして、中国人固有の歴史観を説明する人たちも後をたたない。
古典などを使って中国人が昔から歴史を重視してきたことを語る人もいれば、日本に「神国思想」があったことを考えればとても中国特有のものといえない「中華思想」「正統観」から来ると断罪する人もいる。ただ、いずれも、間違っている訳ではない。それなりに正鵠を射た議論ではある。

しかし、もっとも単純なことは、見落とされがちになってはいないか。
中国は、こうした「先どりされた全体」を目指した、労働者・農民・ブルジョア・プチブルの連合独裁国家であること。そして、今もなお、まだ見えない「先どりされた全体」(=共産主義社会、小康社会…)から、中国人民を統治している国家であることを。左の人は言わずもがな。左から右へ転向した人でさえ、あまりこのことを口にしようとはしないように見える。それは、自分のかつての恥部をさらけだすことを恐れているためなのかもしれないが。

だからこそ、このコミュニストにとっての「歴史」を抉り出した本書は、誰でもが一度は目を通しておくべき、素晴らしい作品にさせている、と言えるのではないだろうか。「先どりされる全体」の論理は、いかなる結末を迎えたのか。それは、今現在、われわれの眼には、あまりにも明らかになっていることでしょう。かつて、その「先どりされた全体」とは、輝かしい「社会主義」のものであった。今、その「先どりされる全体」として、あたらしく「日本」というタームが組みこまれようとされているのではないか。日本におけるプチ・ナショナリズムは、スターリン派にも、それを批判したはずの反スターリン派も持っていた、「先どりされた全体」の再演、すなわち喜劇に陥っている嫌いが見え隠れしてはいないか。

この「転向」の物語は、21世紀においてなお、刺激的な提起に満ちているといえるでしょう。ぜひ、お読みになって、20世紀の若者をとらえた夢(王道楽土、コミュニズム)を鑑賞するとともに、「先どりされた全体」の陰惨さをも、あわせてご堪能いただきたい。


評価 ★★★★☆
価格: ¥660×8

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Last updated  Dec 3, 2005 08:39:23 PM
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