図書館で『多用になる美しさ(ナショナルジオグラフィック2020年2月号)』という雑誌を、手にしたのです。
今回の特集のうち「多用になる美しさ」と「分断される大草原」が興味深いので、借りる決め手になったのです。
【多用になる美しさ(ナショナルジオグラフィック2020年2月号)】
雑誌、日経ナショナルジオグラフィック社、2020年刊
<上位レビュー>より
SNSの汎用化で「美しさ」の定義も変わりつつあるという。民族、世代、体型は関係ない。メディアが一方的に押し付けてくるステレオタイプな美しさを受け入れるのは、もはや時代遅れという”私達”に明るいレポートでした。ファッション業界や出版業界が率先する意識改革・行動変容の具体例が小気味よく載っていました。
<読む前の大使寸評>
今回の特集のうち「多用になる美しさ」と「分断される大草原」が興味深いので、借りる決め手になったのです。
amazon多用になる美しさ(ナショナルジオグラフィック2020年2月号)
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ネットの普及などに晒されて(女性の顔やファッションの)美の基準が揺らいでいるので、見てみましょう。
p44~49
<美しいって決めるのは誰?:ロビン・ギバン>
美の解釈の変化は、ここ10年ほどで、かつて「隙間市場」と見なされていた領域でも起こっている。ノンバイナリー(自分は女性でも男性でもないと感じている人)やトランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)は美の主流を語る上で欠かせない存在になった。性的少数者の権利が法廷で認められるにつれ、彼らに特有の美意識も市民権を得て、ショーや広告のモデルに起用されている。
こうした変化の背景には、テクノロジーと経済、そして審美眼に磨きをかけた新しい時代の消費者の登場といった要因がある。
ここで言うテクノロジーとは、ソーシャルメディア全般、特にインスタグラムのことで、経済要因の基本は、市場シェアをめぐる激しい競争だ。ドレスから口紅まで、潜在的な顧客層が拡大するなか、個々の企業はより広い層に訴求する広告を打ち出さねばならない。
今では信じがたいことだが、1990年代にはショーの会場で撮った写真をインターネット上に投稿すれば大問題になった。作品が公開され、そのデザインをまねた商品が市場に出回る事態は、デザイナーにとって悪夢に等しい。
一方、コピー商品は今でもデザイナーの頭痛の種だが、インターネットがもたらした真の革命は、消費者がコレクションの発表とほぼ同時に、最新のトレンドをつかめるようになったことだ。
かつては、コレクションを見るのは業界関係者だけだった。一般向けのショーではなく、業界関係者はそこに誇張や派手な装飾があるのを心得ていた。彼らは異文化の勝手な借用や人種的なステレオタイプに気づかないか、気づかないふりをしていた。
しかし、富裕層の顧客が多様化し、小売りの販売網が広がり、ソーシャルメディアが影響力をもつようになって、ファション業界は商品のデザインや広告でこれまで以上に説明責任を問われるようになった。アパレルや化粧品のブランドは、インドや中国などで高級品を買う人が増えたため、今では新しい顧客層に配慮して、アジア系のモデルを積極的に起用している。
ファンタジーから現実世界へ
ソーシャルメディアを通じて、社会の少数派が声を上げるようになり、彼らの代表を起用してほしいという声を、簡単には無視できなくなってきた。また、情報サイトやブログが増え、肌の色や性別などにかかわらず、あらゆるジャンルの潜在的な顧客たちが美について雄弁に語るようになった。
加えてソーシャルメディアには、人々の購買行動に影響を与える、まったく新しいタイプのリーダーが登場した。「インフルエンサー」だ。ファッションの魅力にとりつかれた若いインフルエンサーは企業のひも付きではなく、変化に気長に待ってはくれない。なだめても、すかしても無駄だ。業界関係者がどうあがこうと、変化はすでに始まっているのだ。
現代の欧米の美の基準では、これまでずっと細身であることが必須条件だった。だが肥満率が高まるにつれ、現実とファンタジーの乖離が広がっていった。どう頑張ってもファンタジーに手が届きそうもないことに、人々はしびれを切らし始めたのだ。
(中略)
伝統的な美の基準にこだわり続ければ、ファッション業界は大きな商機を逃すことになる。クリスチャン・シリアーノら気鋭のデザイナーたちは、太めの顧客向けの服を作り、商業的に成功して、そのビジネス手腕を高く評価されている。今では超高級ブランドすら、太めのモデルを起用することは珍しくない。
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