図書館で「アンコ椿は熱血ポンちゃん」という本を手にしたのです。
表紙に描かれたカワイ子ちゃんに惹かれて、チョイスするのはどうかと思ったが・・・借りてしまったのです。
【アンコ椿は熱血ポンちゃん】
山田詠美著、新潮社、2009年刊
<「BOOK」データベース>より
すこやかに猪突猛進!さわやかな毒舌と熟練のコブシ回し。あなたの心に勇気の火を灯す大人気エッセイ最新刊。
<読む前の大使寸評>
表紙に描かれたカワイ子ちゃんに惹かれて、チョイスするのはどうかと思ったが・・・借りてしまったのです。
rakutenアンコ椿は熱血ポンちゃん |
ラーメンと脳科学のエピソードを、見てみましょう。
p34~35
<早春の満九十六歳>
本日は、お日柄も良く、冒険小説か、船戸与一御大の誕生日である。と、いうことは、私の誕生日でもあるということ。それなのに例年通り机の前にいて、この原稿を書く破目になっている。ハッピー バースデイ トゥ ミー。いくつになっても計画性がまるでない私である。年いくつ? 26よ、というたわ言にも飽きた昨今。これからは、96です、などと誤魔化してみよう。新感覚のおばあさん道が開けて来るかもしれない。
わしわし食べ、ごくごく飲み、すたすたと歩く。我ながら、老いてますます盛んな、あっぱれ人生だ、と思い込もう。そして、腑甲斐ない若者を叱咤する。ほれ、詠美さんを家まで送る! と男気を見せていたくせに、途中で、私を放り出してタクシーを降り、道端でげろを吐いていたあなたのことよっ! 翌日、電話して来て、誰にも言わないで下さいと懇願していたわね。
ええ、守っていますとも。誰にも言いません。ただ書くだけなの。だって、わたくし、日々のつれづれを描写せずにはいられない閨秀作家のはしくれなんですもの。まあ、だらけて眠ってばかりいるので、閨秀作家と呼ぶべきかもしれないが。
私は、寝るのが大好き。用事のない日は、夜の8時や9時にベッドの中にもぐり込んじゃう。で、本を読んでいるとすぐに眠くなってしまい、グーグー。しかし、それだけ早い次項に寝入ってしまうと、やはり夜中に目が覚める。で、また本の続きを読む。すると、再び眠くなる。これをくり返すとどういうことになるか。夢の中に、その読みかけの本の世界が出現するのである。
川上弘美さんの『真鶴』(文藝春秋刊)を読んだ時は恐かった。夢の中で、私も真鶴に旅をしているのである。茫洋とした寂し気な海辺をひとり歩き続ける私。何度も不穏な空気を感じて振り返り、そしてひとりごちるのである。なんだ、ついて来るもの、いないじゃない。目覚めてもなお、耳に海鳴りの音が響いているような気がしていた。
茂木健一郎さんの本を読みながら眠ってしまった時も不思議な夢を見た。夢の中で茂木さんはラーメン屋の主人だった。おいしいと評判のその店には行列が出来ている。私も、その最後尾に並ぶ。おなかは、ぺこぺこである。あたりには良い匂いが漂っている。まだなのー?と待ち切れない思いで、ぴょんぴょん跳ねて順番を待つ私。
ようやく店に入れてありついたラーメン。これが・・・ものすごくおいしいのだ。うひょーうめーずるずるずる・・・。ところが堪能している最中に主人(茂木さん)が、はい、そこまでで充分でしょ、と言って、私の丼を取り上げてしまうのだ。え? そんな! と思ったところで目が覚めた。
口の中には、ラーメンの旨味が、はっきりと残っている。夢で食べたとは思えない。その時、あっと天啓を受けたような気がした。もしかしたら! これ、この感覚こそが、クオリアってやつ!? へー、ラーメンと脳科学の接点がおれさまのベッドの中でもたらされたなんて、新解釈? それとも、でたらめ? まあ、どっちでもいいや。いずれにせよ、タオル頭に巻いて、派手なパフォーマンスで湯切りする茂木さんは威風堂々たるラーメン職人ぶりであった。
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「アンコ椿は熱血ポンちゃん」1:天高く毎日はアンコ神楽