図書館で「イスラム10のなぞ」という新書を手にしたのです。
ガザ地区ではアラブとイスラエルによって展望の見えない報復合戦に明け暮れているが、なぜそうなるのか知りたいではないか。
【イスラム10のなぞ】
宮田律著、中央公論新社、2018年刊
<「BOOK」データベース>より
今世紀末までに世界最大の宗教人口に達することが予想されるイスラムー。しかし、複雑怪奇な中東情勢は理解しにくく、世界16億人の心を捉えて離さないイスラムの本質はよく知られていない。そもそもなぜ、イスラムはこんにち世界宗教としての地位を獲得することができたのか。なぜ、アラブ諸国とイスラエルの和解は進まないのかー。「10のなぞ」を解き明かすことで歴史の真実と意外な事実が見えてくる。イスラム入門に最適な書!
<読む前の大使寸評>
ガザ地区ではアラブとイスラエルによって展望の見えない報復合戦に明け暮れているが、なぜそうなるのか知りたいではないか。
rakutenイスラム10のなぞ |
まず「はじめに」から、見てみましょう。
p03~07
<はじめに>
複雑怪奇な中東イスラム情勢は日本人にとって理解しにくいのが実情であり、世界16億人の心を捉えて離さないこの宗教に対する日本人の知識も豊かとはいえない。本書はイスラムに関する基本的問題を、「10のなぞ」として設問を立て、最新の中東情勢を踏まえながら、歴史的に解き明かしていくことで、イスラムを知ることができる入門書である。
こんにちキリスト教に次ぐ宗教人口を抱えるイスラムは、今世紀末までに世界最大の宗教人口に達することが予測され、日本人がイスラムという宗教に関わる機会はますます増えていくだろう。過激派による暴力が繰り返され、イスラムには「怖い宗教」「物騒」という見方があることは間違いない。
しかし、イスラムが信徒を拡大していった背景、人々に倫理や法を説く『コーラン(クルアーン)』の内容、予言者ムハンマドの生涯などを知れば、イスラムは危険であるという一面的な考えは払拭されるだろう。さらに、イスラムの歴史と社会制度を理解することは、世界史を読み解く大きな手助けとなる。
手始めに、本書で解き明かす「なぞ」を簡単に紹介してみたい。1から4では、イスラムが歴史的に勢力を拡大し、こんにち世界宗教としての地位を獲得することができた背景を考える。『コーラン』に書かれたことやムハンマドの人物像からイスラムの特徴を捉えたい。
歴史的に見ると、イスラムはムハンマドが生きたアラビア半島に新たな秩序と安寧を与え、イスラム共同体は平和な社会を求める人々の間で求心力を急速に高めていった。ムハンマド以前のアラビア半島は小王朝が乱立し、各部族がそれぞれの神を祀り、この地域全体を治める政治的権威に欠けていた。イスラムは唯一神(アッラー)への帰依を訴えることにより、人々を包み込む大きな政治・社会的権威となっていった。
イスラム帝国がその版図を急速に拡げていったのは、欧米でたびたび言われる、「右手にコーラン、左手に剣」という好戦的な姿勢であるよりも、イスラムが説く教えがビザンツ帝国など当時の社会で定着していた階級を乗り越え、「幸平」や「平等」を訴えて求心力を得たことが大きい。そうでなければ、住民から税を取り上げて、それを帝国の財政基盤にして拡大することは不可能であった。また、インド南部や東南アジアには、ムスリム(イスラム教徒)の商業活動によってイスラムがもたらされた。
5では、8世紀から9世紀にかけてイスラム世界の中心地として大いに繁栄し、学術研究の最先端都市であったバグダードが、やがては衰退の途をたどり、その文明を発展させ、継承することができなかった「なぞ」を考えたい。
8世紀以降、東西世界を支配するようになったムスリムたちはギリシャ古典のアラビア語訳に取り組むようになり、イスラム帝国の首都バグダードは医学、科学、天文学など世界の学術研究の中心となった。
ムスリムがつくり上げた学術的遺産をヨーロッパ人たちも学ぶようになり、それが後にルネッサンス文化として開花していくことになる。1000年を経て、サダム・フセインの統治以降、湾岸戦争、イラク戦争、また「イスラム国(IS)」との戦いで疲弊を余儀なくされたイラクの首都バグダードが、かつての「黄金都市」としての煌きを喪失したことも、イスラム諸国の欧米に対するコンプレックスとなっている。
6では、イスラムにおける経済の発展を考える。
(中略)
最後に、7から10では、15世紀以降のイスラムの歴史を考えることで、スンニ派とシーア派の相克、アラブ人とユダヤ人の対立といったようなこんにちの複雑怪奇な中東情勢の「なぞ」に答えたい。中世から近世にかけて東西イスラム世界を支配したオスマン帝国の歴史は、現在のイスラムと欧米の関係を形づくっている。
トルコとはどういう民族であったのかを知ることも世界史やユーラシア世界の現状を理解する上で重要なカギになる。
オスマン帝国が弱体化、解体していく過程でスンニ派とシーア派の対立も顕著になっていったが、日本人は両派の名称をニュースなどで頻繁に耳にしながらもその相違や対立の背景はわかりにくく、十分理解できていないだろう。また、アラブ・イスラエル紛争は中東最大の不安定要因、紛争要因であり、アルカイダやISが反米テロを繰り返すのも、アメリカがイスラエルを偏って支援してきた背景が関係している。
さらに、民主化できないでいたアラブ諸国の独裁、強権政治は暴力を助長し、過激派にエネルギーを吹き込むことになってきた。
本書では、イスラムに関して根本的かつイスラムを知るために不可欠な「10のなぞ」をやさしく、また時には一歩進んで詳細に解き明かすことによって、読者がイスラム世界の「いま」を理解することの手助けとなるようにしたい。
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