ブリューゲルとボッシュを取りあげている『ブリューゲル、飛んだ』という本であるが・・・・
著者の軽やかな語り口がええので、読み直してみようと思い立ったのです。
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図書館に予約していた『ブリューゲル、飛んだ』という本を、待つこと1週間ほどでゲットしたのです。
この本では、ブリューゲルとボッシュを取りあげているが、この二人は大使の好きな画家なんです。
それにアンナさんはあまり軽口をたたかず、真面目に語っているのが・・・ええでぇ♪
【ブリューゲル、飛んだ】
荻野アンナ著、新潮社、1991年刊
<「BOOK」データベース>より
100%楽しい小説と100%スリリングな批評が合体、ページを繰ると、そこは魅惑のマジックミラー。新芥川賞作家の最新作。
<読む前の大使寸評>
この本では、ブリューゲルとボッシュを取りあげているが、この二人は大使の好きな画家なんです。
それにアンナさんはあまり軽口をたたかず、真面目に語っているのが・・・ええでぇ♪
<図書館予約:(8/24予約、8/30受取)>
amazonブリューゲル、飛んだ
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巻末の付録を、見てみましょう。
p188~191
<ボッシュとブリューゲルの納涼お盆対談>
わたしはS社の「S」に「ブリューゲル、飛んだ」と「笑うボッシュ」という2作を発表している。2作とも美術評論ではない。エッセイでもない。小説というわけですらない。わけのわからないもので原稿料をもらっちゃったりすると、こういうわけのわからない依頼のオマケが来るのだな。やれやれ、と雨の中を会場へ向かった。
地図を頼りに「Sクラブ」へ赴いてみると、それはS社の脇を入った路地にある一軒のしもた屋であった。ブザーは無く、こちらの名乗りに湿った音をたてて格子戸が開く。玄関には数組の履物が並んでいる。S女史のものらしい華奢なパンプスの倍はあろうかという無骨な木靴が人目を引く。
なんとなくブリューゲルのものと察しがついた。隣に柾目の通った桐の下駄がある。四隅がアラベスク風の透かし彫りで、土踏まずの部分には飾り文字でBoschと墨が入っている。
不機嫌そうに押し黙った老女に誘われて二階へ上がった。ほの暗い廊下と打って変わって座敷には光が溢れ、広い座卓に所狭しと並べられた大皿や小鉢がきらっきら輝いている。床の間を背に、血色の良い太った小男が胡坐をかいている。この季節に、上半身裸の上にどてらを着ている。脚のくすんだ肌色から脛毛が透けて見えるのは、どうやらパンストを履いているらしい。わたしの目が釘付けになっているのを感じて男は得意そうな笑顔を向けてきた。
「これ、ええもんでんなあ」
そういえばブリューゲルの絵に出てくる男たちは皆ぴったりと身に合ったタイツのようなものを履いている。
「さっき西友で買うたんやけど、安うおまんなあ。三足五百円だっせ。ただ股袋のないのんが、ちと不便でおますなあ」
当時のタイツに付いた股袋は「男性美」を誇示するのみならず、財布や小物入れの用も果たしたんだそうである。股袋談義に花を咲かせていると、いつの間にか痩せて背の高い人物が傍に立っている。トイレから戻ってきたところらしい。そのままどてらパンスト氏の正面に音もなく座った。
痩身に浴衣をまとい、衣紋掛けのような肩にフクロウを一羽止まらせている。
(中略)
気まずい沈黙を咳払いが破った。S女史だった。「あのう、時間もありますのでそろそろ始めたいと思いますが」、遠慮がちな小声と裏腹のシビアな視線が飛んできた。そうだ、まずわたしが何か言わねばならないのだ。
萩野「えー、今日はお盆とお日柄もよろしく、ボッシュとブリューゲルの両先生にはお忙しいところを時空間を超えてお越し頂き、誠に有難いことと感謝致しております。お二人とも個性的な作風でいらっしゃいますが、その特異な幻想性はえー、何といいますか、ブキミとも何とも、いやその、高い評価を受け、美術史に燦然たるエポックを築かれております。ボッシュ先生は15世紀中頃のお生まれ。かたやブリューゲル先生は16世紀のお方であります。同時代なら馬場と猪木のごとき良きライバルとなられたであろうお二人に今宵は思う存分語り合って頂こうと。まあ、そういうようなわけで、ひとつよろしく」
ブリューゲル「おばんです」
ボッシュ「…」(目礼)
ブ「わては、こういうもんでおま」(「巨匠ブリューゲル」と書かれた名刺を渡す)
ボ「ほほう」
ブ「名刺、もう一枚おまんねんけど。こっちのんは、ちょっと遊んでみましてん」(自作の「バベルの塔」を刷り込んだ大判の名刺を渡す)
ボ「ほう、これはなかなか大した絵ですばい。いつ描きんしゃったと」
ブ「いやいや、お目汚しで。ほんの片手間仕事でおま」
ボ「そげん、謙遜せんでよか。これは文句なしの力作たい」
ブ「いやいや、こんなもん大したことおまへん。皆さんが代表作いうてくらはるモンは他にぎょうさんおまんねん。それでも、いざ名刺にするとなると、なかなか難しおますなあ。ちょっと見ておくんなはれ。(自作の画集を出してくる)『雪の狩人』は名作いわれとりますがお盆には時期外れでっしゃろ。『ネーデルランドの諺』やら『子どもの遊戯』やらは賑やかでよろしいねんけど、広い画面に人さんが散らばっとって、縮小すると迫力おまへんねん」
ボ「牧歌的なもんと幻想的なもんと、器用に描き分けなさるとね。あたしは不器用に幻想一筋ですけん、うらやましか」
ブ「なに言わはりまんねん。作風が多彩ちゅうのは、要するに器用貧乏でんがな」
ボ「誰も作風が多彩とは言うとらんくさ」
ブ「そうでっか。ようそないに言われるもんで。お蔭さんで日本でも可愛がってもろとりま。この前も版画展やりましてんけど」
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ウン サービス精神あふれるアンナさんは巻末の付録で…
ボッシュとブリューゲルお笑い対談をかましてくれました。
それにしても、アンナさんの関西弁がネイティブなみで、ええでぇ♪
『ブリューゲル、飛んだ』4:ボッシュとブリューゲルの納涼お盆対談
『ブリューゲル、飛んだ』3:ブリューゲル、飛んだ
『ブリューゲル、飛んだ』2:笑うボシュ(続き)
『ブリューゲル、飛んだ』1:笑うボシュ