図書館に予約していた『イラク水滸伝』という本を、待つこと8ヶ月半ほどでゲットしたのです。
著者の高野秀行という人は、角幡唯介さんとともに今の日本ノンフィクション界の先陣を走るような人なんですね。
「
探検本あれこれ」という括りを設けているんですが、高野秀行さんの作品を5作ほど取り上げていて・・・個人的には探検家トップの地位を築いておるわけです♪
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【イラク水滸伝】
高野秀行著、文藝春秋、2023年刊
<「BOOK」データベース>より
アフワールーそこは馬もラクダも戦車も使えず、巨大な軍勢は入れず、境界線もなく、迷路のように水路が入り組み、方角すらわからない地。権力に抗うアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込む、謎の巨大湿地帯。中東情勢の裏側と第一級の民族誌的記録ー“現代最後のカオス”に挑んだ圧巻のノンフィクション大作!
<読む前の大使寸評>
この民族誌的記録は“現代最後のカオス”ってか・・・ワクワクするでぇ♪
<図書館予約:(1/06予約、副本3、予約86)>
rakutenイラク水滸伝 |
“現代最後のカオス”のような民族誌的記録を概観するために・・・まず「はじめに」の続きを見てみましょう。
p11~14
<はじめに>
「アフワール」とは「湿地帯」を意味するアラビア語の普通名詞だが、世界遺産登録後はどうやらイラクのこの湿地帯を指す固有名詞にもなった模様だ。本書でも「湿地帯」と「アフワール」の両方を適宜に使っていく。意味は同じである。
ともかく、湿地帯は人間だけでなく生物にとっても避難場所だったというのが面白い。
ユネスコのウェブサイトにはこう説明されている。
「アフワールは、イラク南部の三つの考古学遺跡と四つの湿地帯からなる地域。都市遺跡ウルクとウル、およびエリドゥの遺丘は、ティグリス川、ユーフラテス川の沼沢デルタ地帯において紀元前四千年紀から前三千年紀にかけ、南メソポタミアに展開したシュメール人の都市と定住地の痕跡の一部をなしている。『イラク湖沼地帯』とも呼ばれる南イラクのアフワールは、世界で最も大きな内陸デルタの一つで、極度に高温かつ乾燥した環境における、ほかに例を見ない場所である」。
中東の巨大湿地帯というひじょうにユニークな自然とシュメール文明の遺跡のセットである。これほど魅力的でありつつこれほど行きにくい世界遺産は他にないだろう。
「ここだ!」と思った。ISが猛威を振るっていたり、戦闘が行われていたりするエリアには興味がない。大勢のメディアが報道している場所に私が行く必要はないからだ。それよりこの湿地帯は全然知られていない。イラク水滸伝、すごく面白そうじゃないか。
しかし、湿地帯まで無事にたどりつけるのだろうか。当時、イラクではISと政府軍の攻防が熾烈を極めていた。記事を書いた朝日新聞の記者、小森保良さんに会って話を聞くと、「IS取材のついでに湿地帯を訪れた」とのこと。湿地帯までは首都バクダードから防弾車で往復したというが、湿地帯の治安は悪くなさそうとのことだった。もっとも小森さんも二泊しかしていないので詳しいことはわからない。
「こりゃ行ってみるしかない!」といつものように単刀直入に決意してしまった。だが、さすがにイラクは他の国とはちがう。海外の危険度を四段階に分けている日本の外務省の渡航情報によれば、バグダード周辺と北部はすべて「レベル4」でその趣旨は「ただちに安全な国・地域へ退避してください」。湿地帯を含む南部も「レベル3:その国・地域への渡航はどのような目的であっても止めてください」である。それだけではない。イラクのビザを取得するにあたって、イラク国内の保証人が必要らしいが、私にそんなコネクションはない。入国するだけでも容易でない。
また、話を聞きに行ったイラク政治を専門とする先生から「アラビア語もわからなかったら、いざというとき地元の人とコミュニケーションもとれないでしょう」と指摘されてしまった。もっともである。
そこで、いつもの私のスタイルに戻って言語学習から入ることにした。それもアラビア語の標準語ではなくイラク方言。現地で使用されていることばの方が通じやすいし、親しみをもたれやすいだろうという判断だ。
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『イラク水滸伝』1:はじめに