図書館で『身近な漢語をめぐる』という本を、手にしたのです。
どこを開いても・・・漢字の蘊蓄、漢詩が述べられていて興味深いのである♪
【身近な漢語をめぐる】
木村秀次著、大修館書店、2018年刊
<「BOOK」データベース>より
生活にいきづく漢語の知られざる魅力を探る。
【目次】
1 読みのすがた(字、茶ー字音のみの漢字/菊、蝶ー古訓と漢字音 ほか)/2 意味のうごき(青春(一)-漢詩における「青春」/青春(二)-明治文学の「青春」 ほか)/3 表現のはたらき(粛粛、蕭蕭ー畳語型の漢語オノマトペ/「深深」と「しんしん」-漢字表記と仮名表記 ほか)/4 文明とのかかわり(沸騰ー古代漢語の再生と比喩/蒸発ー蘭学者の造語 ほか)
<読む前の大使寸評>
どこを開いても・・・漢字の蘊蓄、漢詩が述べられていて興味深いのである♪
rakuten身近な漢語をめぐる |
この本には六つのコラムが載っているが、そのうちの一つを、見てみましょう。
蘭学書から派生し、現在の常用漢字表に収められた漢字が語られています。
p201~202
<「麻」の意味と漢語>
最近の個人的な体験話である。買い物に行った帰り、駐輪場に止めておいた自転車を動かそうとして、前の荷籠の荷物が重かったせいもあってか、バランスを崩して自転車もろともふらっとして横に倒れ込んだ。
右手がハンドルとコンクリートの間にはさまれて怪我を負った。ほんの一瞬の「出来事」でどうしてこんなことになったのか全くわからない。まことに「我を怪しむ」ばかりで、あて字らしいが「怪我」とはうまく言いあてていると妙に感心しながら病院に行った。これがなんと、小指の上の中手骨の複雑骨折で結局局部麻酔の手術を受けるはめになった。
「麻酔」(しびれる・よう)の「しびれる(麻)」は普段「びりびりする感じ」に使っていたが、辞書に「感覚なくなって身体の自由がきかなくなる」ことと説明している。そういえば「よう(酔)」も酒だけではなくて、心が何かに奪われてまっとうな判断を失うことにも使う。
この「麻酔」という語は、19世紀初・中期の『厚生新編』や『植学啓原』、『済生備考』などの蘭学書に見える。オランダ語anesthesieの訳語として、江戸時代の蘭学者の造った意外に新しい和製漢語であるようだ。
幕末・明治初期に活動したヘボンの『和英語林集成』初版(1867)は、マスイ(麻酔)とともにマヒ(麻痺)とマヤク(麻薬)も収めている。これらの語をヘボンは、蘭学書によって学んだのか、当時の蘭方医などから得たのか、いずれにしても宣教医として重要な漢語と判断して自分の辞書に取り入れたのであろう。
話は飛躍するが、漢字に関する施策は国語施策の中で、主要な位置を占める。それは、字種の選定、字体の統一、そして音訓の整理に関する検討の歴史である。その結果として生まれた現在の常用漢字表は、情報面の効率、表記上の整備、ひいては教育的な効果と言った点で大きな功績をもっている。日常使用する漢字の「目安」として、訓もほぼ過不足なく満たされている。
「麻酔」の場合、「マスイ」という字音で十分に伝わるが、思いもよらぬ「実体験」のおかげで、字義を改めて確認し、今度は翻訳による巧みな造語に感心した次第であった。
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『身近な漢語をめぐる』3:「熟字」(二つ以上の漢字表記の語)
『身近な漢語をめぐる』2:茶の歴史
『身近な漢語をめぐる』1:漢字の成り立ち