図書館で『日本の異国』という本を、手にしたのです。
この本の目次を見ると以下載っていて興味深いのです♪
足立区のフィリピンパブ、埼玉県川口市の多文化共生、西葛西のリトル・インディア、新大久保の未来など。
【日本の異国】
室橋裕和著、晶文社、2019年刊
<「BOOK」データベース>より
2017年末で250万人を超えたという海外からの日本移住者。留学生や観光客などの中期滞在者を含めれば、その数は何倍にもなる。今や、都心を中心に街を歩けば視界に必ず外国人の姿が入るようになったが、彼らの暮らしの実態はどのようなものかはあまり知られていない。私たちの知らない「在日外国人」の日々に迫る。
<読む前の大使寸評>
探検家・高野秀行さんがこの本を高く評価しているので、きっと面白い本なんでしょう♪
rakuten日本の異国 |
拡大中の中国人コミュニティが報告されているので、見てみましょう。
p218~222
<御殿場市 絶賛拡大中の新しいコミュニティ、中国>
■富士と雪の街にあるインバウンドの最前線
バスタ新宿を出て2時間弱。御殿場の駅前でバスを降りる。東京よりも明らかに寒い。冷たい風が吹き抜けてきて、コートの襟もとを合せた。ここはもう、富士山の麓なのだ。
小さな駅舎には立ち食いそば屋が併設されていた。「御厨そば」というのが地元の名物らしい。そばのつなぎに山芋を練りこんであって、腹持ちがいいのだとか。根菜と鶏肉がたっぷりで、とりあえずは胃袋から温まった。
駅の西側にはささやかな繁華街が広がり、ホテルや居酒屋が立ち並んでいるが、ちらほらと外国人の姿を見る。中国人、欧米人、東南アジア系の人々・・・駅前の刊行案内所で聞いてみると、
「富士山を見に来る人が多いですね。東京からそれほど時間がかからないので、旅程は短いけれど富士山は見ておきたいというかた。それと最近は冬場になるとマレーシアとかタイ、フィリピンの方も増えますが、雪が目的のようです」
熱帯の人々にとって雪そのものがレジャーのひとつとは聞くが、御殿場は東京から気軽に日帰りできる、富士山と雪の街として外国人観光客に知られているのだ。
案内所の係員に「日本人はさっぱり行かないけど、外国人に人気の場所」とリクエストしたところ、即答していただいたのが市街東部の山腹に位置する平和公園だ。
釈迦の骨が納められているという仏舎利塔がそびえているが、まばらにいるのはたしかに外国人だけだった。ツアーバスやタクシーでやってくるのだ。塔を背にして振り向けば富士山と御殿場の街とが一望できることで人気なのだが、あいにくこの日は雲がかかっていた。
だが御殿場には、富士の眺望よりも集客力を持つ、これぞインバウンドの最前線というべき場所がある。御殿場プレミアム・アウトレットだ。
広大な敷地に、服やアクセサリー、スポーツ用品、雑貨などなどブランドショップの店舗が200以上も並ぶ。年間の売り上げは900億円を超える日本最大のアウトレット・モールである。この日は土曜日とあってかたいへんな人出で、静岡の山の中なのに東京のターミナル駅のごとき混雑なのである。
日本人客もたくさんいるが、外国人がとにかく多い。特に目立つのは中国人だ。ヒジャブをまとったイスラム女子や、インド系の家族連れも見るし、僕にとっては懐かしいタイ語の響きが聞こえてきたりもするが、圧倒的に多いのは中国人観光客だ。
御殿場プレミアム・アウトレットにはいまや年間40万人をはるかに上回る外国人が訪れるが、そのうち大部分が中国人と見られている。
そして高級ブランドの品々を惜しげもなく買っていく。もうこれ以上は持ちきれない、というところまで買いまくると、今度は同じアウトレット内でスーツケースを買って荷物を詰め込める。爆買いというやつである。中国人客の増加に伴って、アウトレットの売上げも右肩上がりなのだとか。
と、なれば当然、施設側に求められるもの。それは中国語のわかる人材である。中国人客に対応するために、中国人の店員が一気に増えたのだ。およそ200の店舗にたいていひとりかふたり、中国人スタッフがいる。
つまりアウトレット全体で300人前後の中国人が働いているようなのだ。これはもう、ひとつの「中国村」ではないか。富士の裾野の小さな街に、中国人コミュニティができつつあるのだ。
「私が来たときは、中国人はもちろん外国人のお客様なんてほとんどいなかったんですよ」
朱孔静さんは言う。女性向けブランドのショップを仕切って6年ほどだ。32歳のやたら元気な女性で、日本人とほとんど変わらないイントネーションの日本語を話す。僕の言葉に「そうそう、だよねー」と日本語で頷き、ときに「やっべー」と声を上げ、けたけた笑う様子はなんだか親しみやすいクラスの中心女子という感じだ。
生まれ故郷の黒竜江省・佳木斯(チャムス)を出てきたのは2007年のこと。京都の日本語学校で2年間ほど学んだ後に、大阪国際大学に入学した。
「だからいまでも関西弁が混じる」と笑う。
大学に通いながら日本人と同じようにシューカツをし、内定をもらい、卒業後は入社研修を受けて、配属された先が御殿場アウトレット店だった。2013年のことだ。以来ずっと、ショップを切り盛りしている。
「でも、その頃って中国人のスタッフは私と、近くの中華料理屋のコックだけ。休憩室でもぽつんとふたりだけでゴハン食べて。なんでまた私、御殿場なんだろう。中国人である私の役割ってなんなんだろうって、けっこう悩みました」
会社としてはもしかしたら、日本人も中国人も関係なかったのかもしれない。日本語がネイティブレベルにわかって、仕事も任せられそうだと判断したから、御殿場アウトレット内の店舗という「旗艦店」に朱さんを配属したのだとも思える。
(中略)
「3、4年くらい前じゃないかなあ」
朱さんは振り返る。
中国人観光客を乗せたツアーバスが、日に日に目立つようになってきたのだ。そしてばんばんブランドものを買い込んでいく。2013年に130万人ほどだった訪日中国人は、2014年に240万人、2015年にはなんと500万人と、倍々ゲームのように増えていく。中国国内の急激な経済発展が旅行熱と買い物熱を後押しし、豊かになった中国人は世界各地で「爆買い」に走った。中国から近く訪れやすい日本は格好の旅先であり、その恩恵を大きく受けることになる。
2017年には730万人を突破した訪日中国人たちが、まず楽しんだのは「ゴールデン・ルート」の旅である。
中国から成田もしくは羽田に降り立って、東京を敢行する。近郊のディズニーランドや鎌倉あたりも定番だ。そしてツアーは西に向かう。東名高速道路をかっ飛ばし、ここ御殿場にやってくるのだ。富士山の眺望を楽しみつつ、アウトレットで心ゆくまで買い物を満喫すると、大量の戦利品とともに関西に上陸。大阪・京都・奈良を観光して、関空から帰国の途へ・・・。
リピーターも続々と増えているが、「初めての日本」であれば、このルートをたどる中国人が多いのだ。
東京と関西を結ぶ線上にあり、富士山というキラーコンテンツも持っていた御殿場には、こうしておおぜいの中国人が殺到するようになったのだ。
朱さんも慌ただしい日々を送るようになる。仕事はもう、いろいろだ。
「接客全般に、在庫管理、それに私のほかにも中国人のスタッフがいるから、その教育も」
日本人の社員も従えて、バリバリ働く朱さんに舞い込んできたのは、店長にならないかという話だった。もちろん中国人に対しては初めてのオファーだった。快挙なのだろうと思う。しかし、朱さんは申し出を断ったのだ。
「その頃ちょうどダンナと結婚したこともあったし、子供をつくりたいとも思っていたし、悩んだんですが・・・」
■御殿場アウトレット初の中国人店長
同じくらいの時期に、やはり店長に推され、引き受けたのは〇必燕さん、32歳の男性だ。海外雄飛を目指す若者が多いことで知られる福建省の福清市出身。これは埼玉・西川口の中華レストラン『福記』の店長、林さんと一緒だ。
朱さんとは同じ32歳で、やけに仲がいい。そしてお調子者である。しょうもない冗談を言っては朱さんのつっこみを待つ。この夫婦漫才のようなやりとりも日本語なんである。御殿場アウトレットでは筆記具や腕時計、革製品を扱うブランドショップで働いている。店長としてアウトレットの全体会議にも出席し、インバウンドの現場を支える。おちゃらけているように見えるが、なんといっても御殿場アウトレット初の中国人店長なんである。
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『日本の異国』1:竹ノ塚 魅惑の癒しスポット