今となっては使いにくくなった…
「あなた」「おまえ」「きさま」「きみ」とかの二人称を指すこの言葉、もともとは相手を敬って使う言葉でした。ところが今日では、それらの言葉は全て、相手を対等または自分より下に見下した物言いの使い方をします。したがって日常的には使いにくくなってきていると思うのです。 「あなた」というのは“あちらのほう”から派生した言葉で、ドイツ新ロマン派の詩人カール・ブッセの詩を“山のあなたの空遠く幸い住むと人の言う”と、上田敏が訳したあの“あなた”です。つまり“彼方(かなた)”というニュアンスが含まれています。「おまえ」は“御前(おんまえ)”や“大前(おおまえ)”から転じたものとされており、間接的に人物を表して貴人の敬称となる、とある。「きさま」は漢字では“貴様”と書き、本来はしゃべり言葉ではなく、近世の初期くらいまで武家の書簡で使われた言葉。意味は文字通り「あなた様」と敬意を持って使われていたが、いつの間にやら尊敬の意味が無くなってしまって、今や相手を見下したり罵ったりする時に使われる事となってしまったのです。また「きみ」にしても当然“君”の事でありますから、主君の事を指した言葉です。この言葉も現在は敬意の部分が薄れて、会社でも上司や先輩が部下や後輩に呼びかける時に使うのが常となっています。この言葉たち、どれも元々は丁寧な言い方として、対等または上位の者に対して使われていた敬意の高い言葉だったのですよ。なぜこういうことになってしまったのか、言葉の変遷は不思議です!ちなみに、私はこの言葉の中で「あなた」や「きみ」は今後も使うと思いますが、「おまえ」についてはほとんど使わないだろうし、「きさま」にいたってはもう全く使わないと言いきってもいいでしょう。