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2009年05月22日
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平成17年第796号 平成17年4月6日号発行
  家族ふれあい新聞

 ■木谷ポルソッタ倶楽部【「房」という名のお店~3】

 マスターは誰にでも丁寧な話し方をした。私に対してもいつも丁寧に接してくれた。
 店の扉を開ける。誰もいない場合はよくテレビを見ていた。
野球かサッカーの番組が多かった。マスターがスポーツマンということがわかる。
 私だとわかるとリモコンでテレビのスイッチを切った。
ルイアームストロングのCDをセットし流してくれた。
そしておもむろにモスコーミュールをつくり始めるのだ。
 マスターは店の中ではバーテンであることに徹底していた。
背筋をいつも伸ばしていた。
自分から話しかけることはしなかった。いつも凛としていた。
 そうそう、こんなことがあった。
マスターの様子が少し変なのだ。
なにか顔がくゃくしゃになっているのだ。どうしたのだろう。
私はぼんやりと見ていた。
私の隣にいたカップルが立ちあがって勘定を済ませて店を出て、客は私ひとりになった。
「木谷さん、ちょっと失礼しますよ」
 マスターが後ろを向いて私に背中を見せた。
何をしてるのだろう。ティッシュを鼻の穴に差し込んでグチュグチュやっていた。しばらくして振り向き治った。
「ああ、すっきりしましたよ。先程から鼻の中がむずかゆくてね。どうしようもならなかったのです。お客様の前で、鼻をいじくるのは失礼ですからね」
 トイレに行く場合でも、常連の客の場合に行くようにしていた。
「お客様はカクテルに夢を見ているのです。
夢を呑むために来ているのです。
バーテンダーはカウンターの中にいる時は夢をつくる人なのです」
 うん、マスターはもっと簡単なことを言っていたような気がする。私流に表現するとそのようなことをマスターは言った。
 マスターは人の噂や悪口はひとことも言わなかった。
客がたとえ言ってもマスターは微笑むだけだ。
客と話さない時はカウンターの隅にいた。
そこが自分の場所とわきまえていたのだろう。
マスターは怒ることのない人だ。私は思っていた。
違った。ある時、ふたりの若者が店へ入ってきた。
「ドラマチ一杯」
 若者が疲れた響きで言った。
「そのようなカクテルはありません」
 おっと、マスターが厳しい口調で答えた。
「エッ、ドライマティーニのことだけど……」
 若者が呆れたように言った。
「ドライマティーニならちゃんとドライマティーニと言って下さい。カクテルにはちゃんとした名前があるのですから」
 若者は照れたように隣の若者を見た。
「オレ、ジンフィズ」
「かしこまりました」
 マスターはふたつのカクテルを作り始めた。
 ふたりの若者は話しに熱中し出した。
カクテルをつくっている時のマスターの仕草を見るのが、私は好きだった。
格好いいなと思う時がよくある。
マスターは多くの人へ指導をしていた。
由布院や湯平の旅館の若い人たちにも教えていた。
私も試飲の役割でよくついていった。
 ミキシンググラスを使ってカクテルをつくる場合、マドラーでかき混ぜる。その時に、ミキシンググラスの手元ではなく向こう側からマドラーを引き上げる。できたカクテルはまず手元でコースターに乗せてゆっくりとお客へ押し出しながら差し出すようにする。
 若者たちへそのことを強く言っていた。味そのものよりも、姿勢や出し方次第で、客の受け取る気持ちが変わるらしい。
「カクテルは何種類も覚えなくてもいいでしよう。三種類程度でいいでしょう。酒は自分で確かめながらいいもの使って下さい。それで結構です。後は、何回も練習することです」
そう言うマスターの背中はピシッと決まっていた。

《「房」のひとこと》
 人の悪口を言わないことです。人の噂話をしないことです。
 そしてね、いつもさりげなく背筋をのばして格好良くしておくことです。
 バーテンダーって、それだけさ、木谷さん、簡単でしょう。
(これはマスターは言わなかったけれど、マスターの姿勢を見ながら、私は思ったものだ)






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最終更新日  2009年05月22日 23時33分34秒
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