カテゴリ:つぶやき
鳳凰小屋のスタッフは皆愛想がよく快活で、それが山小屋の雰囲気を明るくしていた。
その中のQちゃん(仮名)は特にそうだった。 小柄で、日焼けした顔にくりっとした目がかわいい女の子だ。 彼女はとりわけ、はきはきと明るい声で登山者と接し、ひと言でいえば、やたら人懐っこいのである。 また、不便でも山小屋の生活が気に入っっているらしく、「電気はなくても構わない。たまに山から下りて街へ出ると、目がチカチカして落ち着かない。」とも言っていた。 鳳凰小屋は花に囲まれた山小屋である。 周囲にはヤナギランがいっぱい咲いていたし、タカネビランジやホウオウシャジンなどの珍しい高山植物も目にすることができた。 中でも、ホウオウシャジン(写真2枚目)は、鳳凰三山にしかない固有種だ。 そんな花々をスナップし、小屋前のベンチで撮ったばかりの写真を確認していたら、私の横にQちゃんがペタッと座り、「見せてー」とせがんだ。 で、カメラのモニターを見せたら、クローズアップのヤナギラン(写真1枚目)を見て、「わー、きれい!」と感嘆の声を上げた。(たいした写真でもないのにね。) 以来、彼女とは写真を通じて会話が弾むようになった。 私が出かけて帰ってくると、「お帰りなさーい」と元気な声て迎えてくれ、たびたび寄ってくる。 私の撮った写真が気になるのである。 鳳凰三山に登って下りてきた時もそうだった。 ベンチでカメラを出したら、すぐ側に来て座った。 私が、出来のいい写真を見せようとモニターを操作するのだが、もたもたして思うように表示できない。 それがもどかしいらしく「貸して」と、私からカメラを取り上げ、いとも簡単にモニターを操作し始めた。 「うわー、これいいね」とかいいながら、お気に入りの写真を見つけては次々と大写しにしてくれた。 まるで、手慣れたスマホを操作する如くにである。 スマホを持たないガラケー世代の私は、ポカーンと見ている他なかった。 彼女、なかなかお調子ものでもある。 鳳凰三山から下山し、2日目の宿泊を申し込んだ時、「○○です」と名字を告げたら、「名前知ってるよーん」といった挙句、「えーっと、えーっと」というだけで、口から出てこない。 結局私は名も告げることになった訳だが、宿泊カードに氏名を記入した後、そらんじようと、何度か私の名前を口に出して読んでいた。 また会った時、すぐ名前で呼んであげようという配慮に思えた私は、その行為がうれしかった。 後に彼女は、自身の名前も告げてくれた。 私は暇な時間、ちょくちょく散歩に出かけた。 御座石コースの樹林帯を、独り静かに巡るのが気に入ったからである。 小屋近くなら高低差もほとんどなく、コメツガ林はいつもガスがかかって幻想的であり、地面にはキノコも良く見つかる楽しい散歩コースだ。 そうやって何度も出かける私を見て、ある時Qちゃんが「私も散歩に付いていきたい」と言い出した。 私はびっくりしてそれには応えず、一瞬、黙り込んだ。 『おいおい、止せよ。親子以上に年の差のある女の子と散歩して、まさか終始無口でもいられないだろうし、何を話題にすればいいんだ。』と、私は心の中でつぶやいたのであった。 ちょっと間が空いた後、私は一人で静かに瞑想の散歩に出かけた。 3日目の朝、「またきっと来てね。秋もいいよ。」とQちゃんに見送られて、私は山小屋を下りた。 わが家に戻ってから鳳凰小屋のホームページを開いたら、ブログに「鳳凰小屋の花が1人下山」と題して、Qちゃんが山を下りたという記事が見つかった。 私が下りた翌日らしい。 どこぞへ放浪の旅をして、また鳳凰小屋へ戻ってくるそうな。 壁紙をDLする カレンダー入りの壁紙をDLする 壁紙をDLする カレンダー入りの壁紙をDLする お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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たそがれの写真家さんへ。
>良いお話ですね。 >よほどつらいことがあったのかな。旅のうれしいことは、こんな出会いにあふれていることですね。 >しゃじんとても好きな花です。 山旅のもう一つの愉しみは人との出会いです。 今回も様々な出会いがありました。 (2016/09/03 06:56:16 AM)
野の花2517さんへ。
>ああ、美しい!!! >いいですねえ。 女性はこんな感じの写真が好きなんですね。 > >ひとなつっこいQちゃんに幸多からんことを。 今頃、どこで何をしているのか... (2016/09/03 06:58:21 AM) |
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