午前十時の映画祭 『友だちのうちはどこ?』
『友だちのうちはどこ?』(イラン/1993年)(午前十時の映画祭 4/9~:TOHOシネマズファボーレ富山)イランの田舎村にある小学校。モハマッド少年が先生から厳しく叱られている。何度言われても、宿題をノートに書いてこないからだ。今度やったら退学とまで言われている。それを隣の席で聞いていたのはアハマッド少年。学校が終わり、家に帰って、まずは真面目に宿題をやろうとしたところ、モハマッドのノートを間違えて持って帰ってきてしまったことに気付いた。たいへんだ、これではモハマッドは退学になってしまうと思ったアハマッドは…。1993年のイラン映画で、特に日本で大きく話題になったという訳でもないので、なぜこの作品が「午前十時の映画祭」の1本に入っているのか僕には解らないのですが、作品としてはメチャメチャ面白かったです。シネマミラージュ風ですね。アハマッドはモハマッドにノートを返しに行かなくちゃと考えました。ところが、お母さんが「宿題を済ませてから行きなさい」と言って許してくれません。「遊びに行くんじゃないんだよ」と説明しても、「宿題が先よ」の一点張り。お母さんは息子の言うことを解らないんじゃなくて、ちゃんと聞いてないんです。この村のほとんどの大人たちは、子供に対して聴く耳を持ってないんですね。でも、子供を大事にしてない訳じゃない。自分たちが生きていくのに一生懸命なんです。この作品にはプロの俳優は出てこなくて、皆、地元の普通の人たちが出演しています。先日の映画の感想と矛盾しているように思われるかもしれませんが、この作品に関しては、それは間違いなく良い方に作用しています。この村の空気がとてもよく伝わってくるからです。おじいさんの「しつけ」の話なんか理不尽以外の何ものでもないのですが、イランの少なくともこの地域はこういう考え方、こういう暮らしなんだよ…ということ。皆それぞれ、結構自分勝手な話をしています。正直に思った通りに、しかも、自分の都合が良くなるように話しています。だから、子供の話なんかいちいち聞いてられないということにもなるのかもしれません。ここの大人たちは皆ちょっと優しくないな…と思わなくもなかったのですが、逆にこの地域の人たちから見たら、日本人ははっきりしなくって、まだるっこしいでしょうね。まぁ、他の国の人からも日本人はそう思われているかもしれませんが…。解りやすくいうと貧しい村です。1993年の話ですが、日本と同じ文明はありません。「モハマッド、君のノートを預かってるよ」と彼の家に電話も出来ません。電話がないから。今日の宿題は新しいノートに書けばいいや…などという発想もありえません。モハマッドは少し離れた隣村に住んでいます。が、バスも無ければ、自転車もない。ただ、文明のあるなしは、それが直接、幸せだとか不幸だとかに繋がるわけでもありません。この村にはなかった。それだけのことです。アハマッドは走って走って、小高い丘と林を越えて友だちの住む村にやってきました。ところが、実はアハマッドはモハマッドのうちの場所を知りませんでした…。友だちの家にノートを返しに行こうとするだけの話なのですが、何でこんなに面白いんだと思わずにいられない展開。そして、最後の最後にアハマッドが取った行動に、おじさん(僕)の涙腺がまたちょっと…。いや、泣きはしませんでしたが、何だか素敵な時間を過ごすことができました。アハマッド君は将来、立派な大人になるんだろうなぁ。かわいかったし(それは立派さとは関係ないけど…笑)。