テーマ:旬・シュン・しゅん♪(3075)
カテゴリ:季節を感じて
女の子には、おばあちゃんとの秘密の場所があるのです。
まだ春早いその場所には、いつも綺麗な水が流れています。 ちょっと早いかなと思っていてもたぶんあるのです。 おばあちゃんがこっそり教えてくれた秘密の場所です。 前におばあちゃんと一緒にかごを持っていったあの場所です。 “あれをとってきたらみんな喜ぶかな。” だれにも内緒で、かごを片手に出かけていきます。 長靴をはいた足でついついスキップを踏んでしまいます。 道端にはロゼット状の草が出ています。 “ペタッと地面に張り付いて お日様を浴びて、冷たい風をよけているんだよね。” 道端のロゼットが綺麗な放射線状に葉を伸ばしています。 放射線状に葉を伸ばして、うまいこと太陽にあたっています。 “こんなにペチャンとしていたら踏まれちゃうのになぁ。” 心配になって、少し慎重に歩くことにします。 ロゼットになる植物は、 ヒメジョオン、ハルジオン、オオアレチノギク、 ヒメムカシヨモギ、コウゾリナ、メマツヨイグサ、 キュウリグサ、ナズナ、イヌガラシ、オニノゲシ、 ノゲシ、ハハコグサといった草が生えているはずなのです。 だけどわかるのは、ハハコグサとオニノゲシぐらいです。 「大きくなったら何になるの?」 思わず、ききたくなります。 お返事のない草に 「春になったらわかるよね。」 とだけ話しかけます。 この辺で奥に入れば、おばあちゃんに内緒で教えてもらった 秘密の場所のはずです。 “あるかな。あるかな。” どきどきしながら、そっとそっと近づきます。 チョロチョロチョロ…今日も水の流れる音が聞こえてきます。 もう何度もおばあちゃんと一緒にきたこの場所に 見間違えることもない草が生えています。 ぬかるみに足を取られながら しゃがんで、はじから大きいのだけをつまみます。 「他の植物は、まだみんな大きくならないのに この子だけは早起きだね。」 “こんなに水が流れていても、寒くないのか。” 不思議に思いながら、摘んでいきます。 この草、独特の香りが漂います。 大人はみんな「いい香り、春の香りだね。」と喜ぶ香りです。 “みんな、よろこんでくれるよね。”期待で胸が膨らみます。 だけど、ゆっくり摘まんでいるのに まだそんなに多く生えてはいないから かごはいっぱいにはなりません。 「だけど、全部はつまんじゃいけないのよね。」 おばあちゃんが、言っていたことを 独り言のようにブツブツ言っています。 自分は食べもしないこの草をとってみんなを喜ばせたくて “大人になればわかる味”と よく大人が言うこの草をかごに摘んで帰ります。 いつもは押さないドアの呼び鈴で お母さんを呼んでみます。 「見てみて。これ採ってきたよ。」 ちょっと得意げに見せてみます。 「まぁ。春の香りがするわね。」 お母さんは、とてもニコニコしながら かなりオーバーに喜びながらそう言ってくれます。 ちょっとオーバーすぎるので 「洗ったりお料理するの大変かな?」 とも、たずねてみます。 だけど、ニコニコの笑顔で 「そんなことないわ。 ほら本当にいい香り。春の香りでしょう。」 とお返事してくれます。 お母さんと一緒に鼻を近づけて 目を閉じ、春の香りで深呼吸です。 “味は苦いから食べれないけど、香りはいい香り。 早く大人になって美味しく食べてみたいな。” おばちゃんもやってきて 「よく採ってきたね。」と褒めてくれます。 「秘密の場所だよ。だれにも言ってないよ。」 ヒソヒソ声でお話します。 「あのね。おばあちゃん。 他の草が、まだみんなペシャンとしているのに この子は、どうして大きくなったの。」 「あそこには、水が流れていたでしょう。」 「うん。」 「大地から湧き出てくるお水はね、暖かいのよ。 一年中ほとんど同じ温度なのよ。」 「えっ!じゃあ。あそこは、植物にとっては“暖かい”の?」 おばあちゃんは、ニコニコしながら 「だから春の香りがいただけるのよ。」 と頭をなでてくれました。 天然のセリは灰汁が強くて大変だけど 香りも味も濃厚で小さなかけらが ホウレン草のおひたしのなかに混ぜてあるだけでも 充分楽しめる春の味です。 「これくらいなら、食べられるよ。」 ホウレン草と一緒になら、苦さも薄れて 子どもにだって食べられる春の味になります。 “大人の仲間入りをしたみたいで嬉しいな。” お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[季節を感じて] カテゴリの最新記事
|
|