「自動拳銃の朝」
きょきょ、と歯軋りが、昔から、 うるさいらしい私は、 自分の寝姿を撮影してみたのだった。 自分が、仕掛けた機械だと、分かっていても、 寝付くまで、何か見られていると思うと、 気が散って、なかなか、眠れないし、よく考えたら、 テープも、60分テープしか用意してなかったので、 目覚まし時計を夜中の午後三時、丑三つ時に、設定し、 寝ぼけまなこで、録画ボタンだけを押すことにして、 床に就いた。 朝、起きてみて、こわごわと、巻き戻して、 再生してみる。 何故こわごわかというと、こういうときに限って、 目にみえないもの、怪談的なもの、 たとえば、「秘密のアッコちゃん」などが、 映りこんでいたら、どうしようなどと、 あらぬ心配をしてしまったのだが、 そんなものより、もっとすごい、 あたくしの、あられもない生態が活写されており、 二十歳くらいから、始まったと思われる、 あたくしの「歯軋り」=「きょきょ」を、ようやく、 客観視することができた。 だが、録画時間残りあと、数十秒で、 あたくしは、あたくしの寝言を、 聞いてしまったのだった。 何か、何かを叫んでいる。 手で、手で、拳銃の形を作って、 何かに、向かって叫んでいる。 天井に向かって、歯軋りしながら、 虚空へと、指先を向けている、あたくし。 そこで、画像は切れた。 ざざざざ。