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カテゴリ:黄金を抱いて翔べ・ツイ・雑誌情報等
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犯罪小説の傑作を映画化、『黄金を抱いて翔べ』の井筒和幸監督
金塊を狙う男たちの"心意気"に惹かれる--原作は、1990年に発表された高村薫さんのデビュー作です。当時、監督はこの小説を読んでほれ込んだそうですが、どんなところに惹かれたのでしょうか? 井筒監督:そりゃぁ、男たちが本当にあるのかどうかも分からない銀行内の金塊を狙う、というところですよ。男たちがふだんの仕事と決別して、「金塊を狙う」という別の仕事をしようとする。そして、人生そのものを変えようとする。その決断、心意気が面白いと思った。それと、主人公の幸田という男が、自由を望む有り様。幸田は「人間のいない土地に行って、自由になりたい」という思いを持っている。「人のいないところに行って、そこで人間をやめる」って、ある意味、誰でも思い当たるでしょ。だって、朝の満員電車に乗ったり、タクシーに乗っていて渋滞に巻き込まれたりしたら、誰だってそう思うでしょ(笑)。大体、今の社会っていうのは、閉塞していてまったく何の自由もない。だったらいっそのこと、どこかに行ってしまって、人間的なストレスから解放されたいと。そんなふうに思っているヤツらが行動を起こす。その様がたまらなく面白い。僕は今まで、小説は五、六百冊は読んできたけど、大体、読み終わったら捨ててきたのね。だから、うちの書棚に残っている小説は三冊ほどしかない。水上勉さんの「飢餓海峡」と、佐木隆三さんの「復讐するは我にあり」、それと、この「黄金を抱いて翔べ」。これだけ。 --映画化が実現するまで、ずいぶん長い年月がかりましたね。 井筒監督:こういうダイナミックな物語は、そう簡単には映像化できないからね。長い小説だし、いろんな話が混じり合っているから、どのように換骨奪胎して映画にするか、そこが難しい。今までにも映画会社やプロデューサーたちが映画化に挑戦したみたいだけど、リサーチの段階でくじけるんだよね。「お金はかかるし、準備は大変だし......」と。僕は最初、別の映画会社に声をかけたんだ。ところが、そこからは「前にも1度(映画化を)企んで失敗したことがあったから、無理だ」って回答があった。「上等じゃねえか」と思ってエイベックスさんに話をした末に、こうして映画化にこぎつけることができたんですよ。 --井筒監督はこれまで、オリジナルの企画の作品が多く、「原作もの」の映画を手掛けるのは珍しいですが、大変だったことは? 井筒監督:この6人の男たちは携帯電話なんて面倒臭いモノは持っていないから、その設定を現代でどうリアルに見せるか。あるいは、銀行の内部の様子だとか、金庫のロックシステム、拳銃の撃ち方、爆弾の作り方といったようなディテールを、一つ一つきっちり整理しなければいけなかった。もう1回ゼロから原作を読み直して、ディテールを映画のためにカスタマイズしていきましたよ。 自分の不格好さを見せるのが役者の面白さ--主役の幸田を演じたのは、妻夫木聡さんです。井筒監督の作品には初出演となりますが、どんな印象を抱きましたか?
井筒監督:(妻夫木さんが主演した映画)『悪人』(2010年)の時よりさらに大人らしくなったんじゃないかと思いますよ。「青年」から「大人の男」に役柄の転換を果たしたんじゃないですか。まあ、『愛と誠』(2012年)でまた一瞬だけ高校生に戻ったりもしたけどね(笑)。 --幸田を金塊強奪計画に誘い込んだ友人・北川の役は、浅野忠信さんです。浅野さんも「井筒組」には初参加ですね。 井筒監督:浅野君には以前、時代劇の映画に出てもらおうと思って、顔合わせはしたんだけど、その企画が流れちゃってね。それで「あの時は悪かったな」と思って、浅野君を真っ先にキャスティングした(笑)。彼は非常に切れ味のいい、計算しているんだけど計算しているように見せない、俳優らしい俳優だね。役者って「自分をかっこよく見せたい」と思っている人が多いんだけど、本来は「自分の不格好さを見せてやろう」というのが役者の面白さなわけ。でも、そのように思える、心のゆとりがある役者は少ないね。僕は、「自分がかっこよくありたい」だなんて考えない人間と一緒に仕事がしたい。浅野君は、その代表格やね。彼なんか、衣装合わせを始めた日に、いきなり頭を角刈りにして現れたからね。「えらい早いこっちゃね。撮影開始まで、まだ1か月ありまっせ」って言ったら、「もう、役になり切ってんです」なんてね(笑)。対照的に妻夫木君は、顔合わせの時に、ひげ面で現れた。で、僕は「そのままでやれば?」って言ったの。大人のハードボイルドに近づくためには、そのままの、ぶっきらぼうなひげ面で演じた方がいいって。 --大阪が舞台の映画ですが、金塊強奪計画に加わる6人の男のうち、銀行担当システムエンジニア・野田を演じた桐谷健太さんが唯一、大阪の出身ですね。生き生きとした大阪弁が印象的でした。 井筒監督:あんなふうに大阪弁をしゃべれる若い役者は、あいつぐらいしかいないからね。他にもやれそうな役者はいるにはいるけど、役柄同様、「今までとは別の人生を愉快に生きようぜ!」っていう、子供のような気持ちを持った役者じゃないと。そう考えると、桐谷しかいない。あいつとは『ゲロッパ!』(2003年)の時から一緒に仕事をしてますからね。井筒組の卒業生の中で、世間を騒がせていない唯一の優等生だから(笑)。優等生は優等生なりに使ってやろうかな、と。そういうことやね。 (取材・文/ヨリモ編集デスク 田中昌義、インタビュー写真も)
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Last updated
2012.10.30 23:37:18
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