オトコに見せたいこの映画『黄金を抱いて翔べ』#movie /第101週(火曜担当/松村 知恵美)
様々な映画作品に意欲的に出演し、日本映画界を盛り上げている若手実力派俳優・妻夫木聡、浅野忠信。
彼らが新たな出演作に挑んだのが、高村薫原作の同名小説を井筒和幸監督が映画化した本作『黄金を抱いて翔べ』です。
この作品は、大阪を舞台に、追いつめられた6人のオトコたちが240億円の金塊強奪作戦に挑む、ジャパニーズ・フィルム・ノワール。
金塊に見入られたオトコたちが自らの人生を燃やし尽くしながら犯罪に挑む様子を、時にクールに、時にコテコテに描いた、不思議な味わいの一作です。
本作で、240億円の金塊強奪作戦に挑むのは、様々な過去を持つらしいオトコ・幸田(妻夫木聡)と、幸田の大学時代の同級生のトラック運転手・北川(浅野忠信)、銀行担当のシステムエンジニア・野田(桐谷健太)に、北川の弟で自傷癖のあるギャンブル依存症の春樹(溝端淳平)、脱北した元北朝鮮のスパイ・モモ(チャンミン)、元エレベーター技師で今は中之島好演の掃除などをしているジイちゃん(西田敏行)の6名。
幸田とモモこそは、過去に犯罪組織や過激派とつながりがあったりしているようですが、彼ら以外のメンバーは大胆な犯行を成し遂げるには、どうにも素人臭が漂っていたりも。
金塊を盗むための犯行計画も、緻密なのだか適当なのだかよくわかりません。
地下3階の金庫に眠る金塊を盗むため、地下2階の駐車場から侵入し、エレベーターを捜査して忍び込もうとするのですが、陽動作戦のために近くの中之島変電所を爆破して、辺り全域を停電にさせようとするのです。
素人目にも「そんな計画でだいじょうぶなの?」と心配になるようなギリギリの計画ですが、6人のオトコたちはそれぞれの思惑を胸に秘めつつも、大胆不敵に計画を進めていきます。
そして、彼らは追いつめられ、後戻りもできなくなるのです。
240億円分の金塊を強奪するという、この途方もない計画に、オトコたちはひたすらに突進していきます。
ノリで始めたような計画の中で、彼らにとってはやがて、"240億円分の金塊を強奪する"ことが手段ではなく目的になっていきます。
"金塊を強奪した後にどう生きていくか"ではなく、"金塊を強奪するためにどう生きるか"が重要になるのです。
そして、犯行の日がやって来ます。
彼らは計画通り変電所を爆破し、銀行に侵入してヤケになったかのように金庫を吹き飛ばし、金塊に向かって突進していくのですが...。
この作品のもう一人の登場人物とも言えるのが、強烈な個性を発する"大阪"そのものです。
幸田たちが狙う銀行本店や中之島公園のような、歴史ある重々しい施設もありながら、そこに住む人たちはみな軽妙で、やたらと登場人物たちに話しかけてきたりします。
「あらー、すんませんなー」
「ニイちゃんら、何やってんのん?」などと、大阪の普通の人びとを登場人物に絡まれることで、井筒和幸監督は、彼らの異端性を際立たせ、映画に不思議なリズムと魅力を与えていると言えるでしょう。
実はこの原作小説が発表されたのは、1990年。
20年以上前の作品を下敷きにしているだけあって、携帯電話が登場しなかったり、銀行のセキュリティシステムがなんだか旧式だったり、どこか古くさい点もあります。
しかし、目的のものを手に入れるために人生を駆け抜けるオトコたちのギラギラした輝きは、この時代錯誤な泥臭い世界観の中だからこそ、より鮮烈に感じられるのかもしれません。
さすが関西出身の井筒和幸監督。
泥臭くオトコ臭い、日本ならではの大阪印のクライム・ムービーを作り上げてくれました。
『黄金を抱いて翔べ』(129分/日本/2012年)
公開:2012年11月3日
配給:松竹
劇場:全国にて
公式HP:http://www.ougon-movie.jp/
<STORY>
幸田は大学時代の同級生・北川に誘われて、大阪・吹田市にやって来る。彼らは大阪のとある銀行本店地下にある240億円の金塊を強奪するという計画を立てていたのだ。その計画には銀行担当のシステムエンジニア・野田や元エレベーター技師の訳あり老人・ジイちゃんらが名を連ねていた。計画に爆弾のエキスパートが必要と考える幸田は、以前から面識のあった北の某国から来たスパイ、チョウ・リョファン(モモ)をも仲間に引き入れる。
原作:高村薫
監督・脚本:井筒和幸
出演:妻夫木聡/浅野忠信/桐谷健太/溝端淳平/チャンミン/西田敏行/青木崇高/中村ゆり/田口トモロヲ/鶴見辰吾