東アジア大戦。その303。 潜水艦「神秘」 その52
↑ちょっと気合いが入ってきました。がんばります!大国アメリカが没落した後の世界を想像しています……その御伽噺第303話です。ロバートはまったくしゃべるべき言葉を失ってしまった。自分たちの潜水艦だったのに今はたった一人の男に乗っ取られて手も足も出ない。そして30秒で味方の連中が放ったアスロックの魚雷によって粉々に吹っ飛ばされてしまうのだ。「衝突まで10秒、9、8……」 男がカウントし始めた。ロバートは軍人として覚悟を決めなければならないと、次に起こるであろう衝撃と苦痛に対して息を止めながら待った。カウントの声をかき消すようスクリュー音が響いてくる。「衝突!」 と、男がいった。ロバートは思わず目をつぶった。スクリュー音は潜水艦の上の方を通り過ぎていく。その後は静寂に包まれた。爆発は起きなかった。「不発……だったのか」 と、ロバートがつぶやいた。「だと思いましたよ」 と、男がいう。「いきなり撃ってきたからね、あれでは照準は不正確だろう。こちらの出方を見るために撃ったんだ、撃沈が目的ではない」 男の説明にロバートは自分がただのエンジニアでしかないことを痛感した。そのような駆け引きを想像するゆとりなどかけらもない。自由アメリカ海軍の潜水艦だった「ノーチラス」は上海海軍の大胆不敵な特殊作戦によって完全に乗っ取られ、電子データ上は消失している。だが、スクリューの音紋データそのものは「ノーチラス」なのである。自由アメリカ海軍のイージス艦にも迷いはある。だからいきなりアスロックを撃ち込んで様子を見たのだ。「ノーチラス」は避けることも反撃することもしなかった。取りあえずイージス艦「キャンベラ」にとって直ちに危険な存在ではない、ということは伝わった。モニターに表示されたデータではイージス艦は停止している。「次はどうする?」 と、ロバートは男に対するある種の尊敬と信頼の念を感じながらたずねた。「君の提案通りだ」 と、男がいうと、「浮上、浮上。メインタンク、ブロー」 と、号令をかけた。警報が鳴り、床がぐぐっと傾いた。続く。