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カテゴリ:主張
いきなりの化学式で恐縮である。私は恥ずかしながら元化学者である。 そんな次第で学生時代から日本やアメリカの学会に加入していた。 50年以上も加入していると名誉会員と言うことで会費免除で 機関誌を送ってくれる。アメリカの会報 "Chemical and Engineering News"の10月3日号に面白い記事を 見たので紹介したい。 静岡大学の河岸教授と名古屋大学の伊丹教授の研究である。 Fairy Circleと言うのをご存じだろうか。恥ずかしながら私はこの言葉を初めて知った。 イギリスの民話では「妖精が輪になって踊った跡」とされていたり、 ヨーロッパでは「魔女の輪」とか「妖精の世界への入り口」などと言われている。 丸い輪状にキノコが生えていたり、芝生が輪状になって成長していたり、 逆に輪状に芝生が枯れていたりする自然現象である。 今ではこれはある種の菌類・キノコ類のいたずらと言うことが分かっている。 したがって正式には《菌輪》と言うものらしい。 (Wikipedia より借用) 今では約50種のキノコ菌が菌輪を作ることが知られている。 リングのサイズは一定ではなく、直径2,30センチから700mものが知られている。 また下の写真のように大小が隣り合ったりする。 手前には小さなリングその後方には大きなリング(Wikipedia より) さて河岸さんらは以前からコムラサキシメジと言うキノコが2-アザヒポキサンチン (上の構造式でAXH)という植物成長ホルモンを生産し、 それが芝生などの成長を促進することを明らかにしている。 円の内部には異常は見られないのでAXHはキノコの菌糸が地下で同心円状に 広がってゆく、その成長部でのみ生産されるので輪っか状の芝生だ出来るのだろう。
今回の論文はAXHから簡単に合成できるPhenyl-AXHの類が AXHよりもはるかに強力な成長促進作用を示すというものだ。 芝生の成長にとどまらず米や麦、豆類にも効くらしい。 植物のサイズが大きくなるだけではなく穀類や豆類の収穫量が大きく増えるそうだ。 今年の日本人ノーベル賞受賞者の本庶さんを含め皆口にすることは 基礎研究の重要性である。”なぜ”芝生が輪を作るのから始まって研究していると 農作物の増産につながったという事例がここにある。 河岸さんも最初から食糧増産を目的に研究したわけではない。 ノーベル賞の推薦要綱にも明記されているが、要は広く適用される原理の 発見こそが賞の対象である。マスコミはすぐ何に役立つと言いふらすが、 何に役立つか分からない原理の発見こそが後に応用されて人類に役立つのだ。 本庶さんの賞にしても免疫細胞のブレーキ機構の発見がその授賞理由で オプジーボの開発は後からついてきた成果である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.10.10 16:13:16
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