|
テーマ:アメリカ外交史(232)
カテゴリ:米外交史
▼エピローグ9
感情があふれ出し、ロレンツは一気にまくし立てた。 「自殺した難民のいったい何人が、最期にあなたの名前を呼んで死んでいったかわかる? 肌の色が違うという理由で殺された難民がいるのを知っている? 私はあなたを糾弾するために来たのよ。私はあなたに、私が感じたように苦しんで欲しいの。あなたの名前を呼びながら私の腕の中で息を引き取った子供の苦しみを感じて欲しいの。“フィデルに愛しているって伝えて”と、自殺した16歳の男の子が血で書いたシーツをあなたに渡したいの。あなた宛よ。あなたが見捨てた子供の一人からよ。あなたを殴ってやりたかったわ。この二年間、私が流した涙をあなたの目からも流させたいわ。悪いキューバ人もいれば、いいキューバ人もいたわ。でもみんな、キューバの血が流れていたのよ。600人の孤児、それに独身男性や家族たち。彼らはあなたのキューバ人だったのよ。フィデル! あんなに多くの人々を追放するなんて、キューバはいったいどうなってしまったの?」 隣に座ってじっと聞いていたカストロは、ロレンツの話が終わると立ち上がって、言った。 「彼らは国を出たがったので、行かせてやったのだ」 「あなたが間違ったことをやったのかどうかはわからない。私はただ、私が覚えている多くの、多くの子供たちの言葉を伝えたいの。撃ち殺された小さな男の子たちのことを伝えたいのよ。彼らに対する虐待のこともね。私が言わなければ、あなたは一生気づかないままだわ」 「私の閣僚評議会と話をするかい?」 「やめてよ。あなたがキューバでしょ!」 カストロもようやく、事態の深刻さを理解したようであった。少なくとも、ロレンツの言葉に突き動かされたことは確かだ。カストロは無言のままロレンツの顔を見つめ、手をつかんだ。 「お前の子供たちをキューバに連れておいで。家はある。すべてを揃えておこう」 「今となっては、子供たちも付いて来ないでしょうね。もう大きくなったし、観光でなら来るかもしれないけど。それよりフィデル、私にはもう一人、私の手で育てられなかった男の子がいるはずよ。あなたのもとにね。その子のことについて教えてちょうだい。知りたいのよ、フィデル。私の心にはポッカリと大きな穴が開いているわ。あなたが私の母との手紙のやりとりで、私とあなたに似た男の子の写真を送ってきたのを知っているわ。その子は今どうしているの?」 カストロは部屋の中を歩き回りはじめた。明らかに動揺しているようであった。ロレンツはたたみかけた。「教えて。私たちの男の子のことを。あなたと私の血が流れている子供のことを」 「キューバで生まれた子はみな、父親のものだ」 「答えになっていないわ。それはあなたが作った革命法の話でしょ。どの子供にも母親がいるわ」 カストロはこぶしを握り締めた。ロレンツが子供のことを持ち出したことで機嫌が悪くなったようであった。ロレンツはこれ以上怒らせてはまずいと思い、言葉を補った。 「子供に会いたいの。生きているの? お願いよ、フィデル!?」 「あの子はお前のものではない。キューバの子だ」 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[米外交史] カテゴリの最新記事
|
|