ひとみ座「リア王」
【ひとみ座 劇団創立60周年記念公演】「リア王」新国立劇場・小劇場 開演14:00作:W・シェイクスピア 訳:斉藤 勇(岩波文庫版)上演台本・演出:以東史朗 美術:片岡昌美術製作:ひとみ座アトリエ照明:坂本義美(龍前正夫舞台照明研究所)音楽:河向淑子演奏:佐藤謙一 やなせけいこ ひとみ座音楽集団宣伝美術:三浦佳子舞台監督:来住野正雄制作:半谷邦雄 藤川和人 田坂晴男出演:龍蛇俊明/高橋奈巳/山本幸三/友松正人/鈴木裕子/藤川和人/木俣かおり/ 中村孝男/根上花子/齋藤俊輔/篠崎亜紀 他「リア王」は、ひとみ座の創立40周年記念公演として20年前に俳優座劇場で幕開けし、50周年記念公演でも上演しているので、今回は3回目になる。チラシの人形達の顔は、どれも本当に存在感のある「役者」の顔に見える。ひとみ座さんの舞台はこれまで何度か観ているので、老舗の劇団(「ひょっこりひょうたん島」をやっていた劇団)ならではの、人形遣いのテクニックと光や布による演出効果の面白さは周知の上だけれど、シェイクスピアの描く世界…欲に取り憑かれた愚かな人間たちの、正邪渦巻く悲劇の物語を人形劇でどこまで表現できるのだろう?そんなちょっぴり疑念まじりの期待感が高まる中で、2時間半の”人形劇”版「リア王」の幕が開いた。舞台上中央と左右の脇に、人形が数体ずつ並べて置かれている。命の宿っていない、単なる物体としての人形。…死体にも見えてくる。暗い悲劇の香りが漂っている。会場の後方から、乞食(道化?)達がギターやリコーダーなどの楽器を演奏しながら入場。劇中での音楽はもちろん、嵐の音や馬の駆ける足音などの効果音もすべて生音で演じられる。舞台上に横たわる人形に、黒装束の遣い手さん達の手が入ってゆく。命が宿ったように生き生きと動き出す。等身大の人形は二人掛かりで操られる。「主使い」が頭(かしら)と右手を操りながら台詞を喋り、もう一人の「介添え」が左手を操るため、稽古には相当の時間を要したと思う。どの人形も、遣い手さん同士たいへん息の合ったパートナーシップを見せていた。微妙な顔の向きや、腕の動きは本当の人間のようにリアル。開演してしばらくは、遣い手の技に感心する余裕?があったのに、いつの間にか人形そのものが生きている役者のように思えてしまうからスゴい。★ひとみ座HP「リア王」http://www.hitomiza.jp/kouen/riaou01.html★1/9に開催された、制作発表を兼ねた交流会の様子http://www.land-navi.com/backstage/topic/2006/1/hitomi/(人形の大きさや遣い手さんとの関係がわかります)リアルと言えば、人形の顔の表情は、登場人物の内面そのものようにデフォルメされている。強欲、高慢、苦悩、などなど。夜、人の居ない部屋で見つめたらきっと背筋がゾワ~とくるような、陰気な顔をしている人形が多いけれど、末娘のコーディリアだけは比較的生身の人間に近く作られていると思った。彼女は知的な乙女の顔をしている。ストーリー上で登場人物(人形)の変装や、目玉をくり抜かれたり刺殺されるなどの残虐シーンは、生身の人間が演じるとどこか嘘っぽい(いかにも演技してます、って感じ)のに、人形はリアルでとても怖ろしかった。人間では表現の限界があるけれど、人形は「何でもあり」なぶん、より的確に表現できるんだね。シェイクスピアの悲劇では、主人公を含め、とにかく大勢の人間が死ぬ。「リア王」でも、ブリテンとフランスの兵士は除いても8人は死んでしまう。的確な表現という点では、「死」の場面において最も顕著に感じた。生きている人間が「死」を演じるのと、もともと生命のない人形が「死ぬ」のでは、どちらがよりリアルな「死」と言えるか?<以下、演出の伊東史朗氏の記述より抜粋>人間劇と人形劇では生と死が逆転しています。人間劇では生きている人間が死を演じるのですが、人形劇ではもともと生命のない人形が人形遣いの手で「つかの間生きて」芝居をするのです。そして、優れた人形遣いの手にかかると人形なのに人間以上に生き生きと見えたりしますが、その人形が人形遣いの手から離れるとどうなるかというと、当たり前のことですが、人形はもとの「生命のない物体」に帰っていくのです。「死の演技」に関しては人間よりも人形のほうがはるかに得意であり、リアリティがあるのはあたりまえなのです。なるほど~。私事だけれど、子どもの頃からずっと不思議に感じていたことの理由が、やっとわかった。よく、天災とか事故の現場映像で、被害者の子どもが可愛がっていた(と、思われる)人形やぬいぐるみが写るでしょ。ポツン…と地面に寂しそうに横たわっているような…。そういうのを見ると無性に悲しくなってしまうのは、不運にも亡くなってしまった持ち主の無念さに感情移入しているんだと、自己分析していたの。でも今回「リア王」を観て、目からウロコが落ちたよ。家の中でも、かなり前から娘ちゃんに、「ぬいぐるみを床に放置しないで!」と、言い続けている私。のたれ死にしているみたいに、何日もうつ伏せ状態で床に転がっているぬいぐるみ。可哀想で見てらんない。どんなにホコリだらけでも、くたびれていても、必ず飾るか仕舞うかして欲しい。見ごたえは、普通に人間が演じるシェイクスピア劇と比較しても、決して劣らない。興味のあるかたは、今週末の神奈川公演に足を運んでみては? 客層は9割以上が大人。すぐ近くの座席にいた小学校中学年~幼稚園児ぐらいの子たちには、正直キツかったみたい。シェイクスピア劇の登場人物の相関関係は、初めて観る大人でも「?」だから、原作を知っている子どもならOKかもしれない。仮にうちの子ども劇場で上演するとしても、小学校高学年以上を対象にすると思う。★2/4(土)5(日) 神奈川県民共済みらいホールにて公演【料金】前売:4,500円 ペア券:8,000円 当日:5,000円 ※全席指定【お申し込み】人形劇団ひとみ座 TEL 044-777-2222(平日10~18時 土日休) FAX 044-777-5111(終日可)