カテゴリ:感情の法則
プロ野球で、ツーアウト2、3塁で、バッター8番という場面があったとします。
次9番バッターがピッチャーで、状況から考えて代打はあり得ないとき、ベンチから申告敬遠で満塁策を指示される場合があります。 ピッチャーは打てないだろうから、得点は入らないだろうと誰もが考えるのです。たしかにピッチャーはバッティング練習を本気でしていないので、そういうケースが多いようです。 ところが対戦するピッチャーの心理は複雑です。 普段通りの心理状態であればよいのですが、万が一という感情に支配されるとパニックになります。 アウトをとって当然の場面では、「これでチェンジになるだろう」と、守っている味方選手もベンチも、そしてファンも信じて疑わない。ピッチャーは、みんなの期待を一身に背負って、「何が何でも抑えなければならない」という気持ちが強くなるのです。 これが大きなプレッシャーとなり、精神的に大きな負担となるのです。 そういう気持ちが前面に出てくると、ここはなるべく慎重に投げようと思うようになる。 必要以上にコーナーを狙ってみるようになる。 ストレートにしようか、それとも変化球にした方がよいのか配球にも悩むようになる。 疑心暗鬼になり、自分が信じられなくなるのです。 もう一人の自分が、パニックに陥っている自分を否定するようになるのです。 すると手元が狂ってなかなかストライクが入らなくなる。 ボールが先行すると、その不安はますます高まる。 3ボールになると、パニックになります。 自分のふがいなさを嘆くようになると始末に負えない。 1割にも満たないバッターでも、偶然にあたる事はあるはずだ。 ポテンヒットを打たれたら、たちまち2点はとられてしまう。 フォアボールで押し出しになると目も当てられない。 監督、コーチ、ファンに合わせる顔がない。叱責される。ヤジられる。 つまり精神交互作用でネガティブな考えが次々に頭をよぎる。 こうなると頭で考えていた最悪のシナリオが、現実のものとなる可能性が高まります。 これだけは絶対に避けなければいけないと思っていることが現実になるのです。 何とも歯がゆいことですが、最悪の事態を自分自身が引き寄せているのです。 最悪の現実を目の当たりにして、やはり自分の見立ては正しかった。 以後、怖気づいて、バッターとの駆け引きを忘れてしまうと、どうにも止まらなくなります。 この心理状態は、どんな仕組みになっているのか。 この現象は脳の仕組みを観察するとよく分かります。 ネガティブな感情や気持ちは、まず扁桃体に入ります。 扁桃体は、神経伝達物質のノルアドレナリン等を使って、不安や恐怖の情報を脳全体に伝えます。すると「やる気の脳」と言われる側坐核の機能が上がらなくなります。沈黙するのです。 さらにプラスの行動をとるために、本来なら全力で試行錯誤を繰り返している前頭前野も機能停止になります。一大事の時に休眠状態になっているのです。 自分はなんとかしなければと思っていても、脳が機能不全を起こしているのでどうすることもできないのです。脳全体が、委縮して、慌てふためき、放心状態に追い込まれているのです。 これでは成果が上がるはずもありません。 もしこの時、「よし、この状況では何とかチェンジに持ち込めるぞ」というポジティブな感情や気持ちが湧き出たとしたらどうなるか。 この場合は、神経伝達物質としてドパミンがどっと出ることになります。 それはまず「やる気の脳」である側坐核に届きます。 自信に満ちて、おのずからモチベーションが上がります。 ピンチになると、本気モードになって、エンジンのギアが一段階上がるという選手がいますが、この部分が活性化しているのです。その情報は直ちに脳全体に伝えられます。 特に前頭前野に伝えられて、その活動が旺盛になります。 前頭前野は打者を打ち取るための方策をあらゆる角度から分析します。 いくつかの選択肢からこれぞと思うものを、捕手と相談しながら選択します。 あれこれ迷わず、これで勝負という建設的で前向きな気持ちになります。 このように脳が緊急事態に当たり、総力を挙げて自分に協力してくれる訳ですから、火事場の馬鹿力がでてくるという仕組みになっているのです。 最初にネガティブな感情や気持ちが湧き出てしまうと、最初からおよび腰になります。 反対にポジティブな感情や気持ちが湧き出てくると、やる気に火がついて勇気百倍になります。 でもこれは意志の力だけではどうにもなりません。 そのためには、森田では形から入ることをお勧めしております。 形から入るということは、普段から愚痴や否定語を使わないで、希望的な肯定語を使うように心がけていくのです。これを習慣化していくことが肝心です。 一大事の時に、ドパミンが湧きだしてくるような仕組みを作り上げていくのです。 これはピンチになればなるほど、効果が出てきます。 例えば、自分に次のように語りかけるのです。 「大丈夫。大丈夫。相手は9割の高い確率で凡打する。それは何よりもデーターが示している。掲示板を見ると打率が1割にも達していないではないか。自分は140キロ以上のストレートを投げることができる。スライダーも鋭く曲がっている。今の自分の力を持ってすれば抑えられるはずだ。自分の力を信じて、ここは腕を思い切り振って勝負してみよう」 何の根拠があってそんなことを言うのかではまずいのです。 自分は自分の最大の味方であって、どんな事態になっても、見捨てないで応援し続けるという気持ちが大切になります。 このように自分と対話すれば、大事に至らない可能性が高まります。 仮に失敗しても、自分を否定しないので、早く気分の切り替えができます。 そして次の投球に専念できるので、勝てる機会が増えてくるのです。 この脳のからくりは、神経質者も心得ておくといざというときに役立ちます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.08.10 06:36:08
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