カテゴリ:観念重視から事実重視への転換
緩和医療医の大津秀一氏のお話です。
40代で末期がんの加納さんという女性の方がいました。 3人の子供さんがいました。 一番上は10代の前半で、下はまだ小学校に入ったばかりです。 加納さんの苦悩は、単に病気のことばかりではありませんでした。 彼女は、自身が死と直面しているこの時期になっても、ご主人と心を通わせることができないことに苦しまれていたのです。 二人は熱烈な恋愛結婚でしたが、いつしか二人の間には隙間風が吹き、仮面夫婦のようになってしまっていたのです。 この絶望的な状況中でご主人から提案がありました。 残された期間を子ども達と家で過ごさないかというものでした。 3人の子ども達を見ていて、君の子育てはよかったんだなと痛感した。 子ども達もそれを望んでいるし、介護申請もしておいたんだ。 今まで僕は仕事にかまけて、家庭のことはほったらかしだったけれども、いまからやり直そうよ。 加納さんは、最初は「もう遅いわよ」と反発しましたが、そのうち泣き崩れました。ご主人の温かさがうれしかったのです。 それと同時に、なぜ自分が病気になる前にこうした時間を持てなかったのか、その悔しさもこみ上げてきました。嬉しくて悔しくて泣いたのです。 後日加納さんは大津先生にこんな話をされています。 先生、人生ってなかなか思うようにならないものですね。 先生、生きるって、こんな世の中と和解する過程なのかもしれません。 生きて、現実と折り合って、そんな状況と和解することが、生きるって意味なのではないでしょうか。 だからたとえ、思い描いた夢が薄らいでも、人には生きる意味があるのではないか。 私たちはこの生きる現実と和解するために、生きる意味がある、そう思ったのです。 和解するために、心を磨いて、それを受け止め、受け入れる強さを身に着けるために生きる。 それが生きる意味なのではないかと私は思いました。 (終末期医療現場で教えられた「幸せな人生」に必要なたった一つの言葉 大津秀一 青春出版社 28ページ) 加納さんは素晴らしい真実に気づかれました。 ここは森田理論と関係があるところです。 人生は理想通りに進展ことはありえない。 他人とは折り合えないで絶えず衝突を繰り返す。 何も悪いことはしていないのに、理不尽な災難に巻き込まれてしまう。 そんな時普通はイライラして不平不満でいっぱいになる。 それを怒りなどの態度で外にぶちまける。 他人に自分の考えや主張を無理やり押し付けようとする。 境遇や運命を呪って自暴自棄に陥る。 森田では自分、他人、自然に歯向かって何かよいことがありますかと問いかけています。 それよりも現実を受け入れて、和解、歩み寄り、妥協、共存共栄の道を目指すことが大切なのではありませんか。 その道はたゆまぬ努力が必要になります。面倒で時間がかかります。 必ずしも双方が納得する結論が得られるわけではありません。 しかしその道を拒否していると、みんながみじめで後戻りのできない悲惨な世界に引きずり込まれてしまいます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.10.21 08:17:29
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