図書館で『日本人が誤解している東南アジア近現代史』という新書を、手にしたのです。
中国の経済成長に陰りが見える今、次の成長セクターは東南アジアになるとのことで・・・対中認識を改める必要があるようです。
【日本人が誤解している東南アジア近現代史】
川島博之著、扶桑社、2020年刊
<「BOOK」データベース>より
「日本が侵略した」「日本が解放した」どちらも間違い!!11ヵ国、6億5000万人を抱える東南アジアの多彩な歴史と文化の実相!日本人だからこそ知っておくべき東南アジアの歴史の真実!
<読む前の大使寸評>
中国の経済成長に陰りが見える今、次の成長セクターは東南アジアになるとのことで・・・対中認識を改める必要があるようです。
rakuten日本人が誤解している東南アジア近現代史
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「第3章」でベトナムでのスマホ普及などが語られているので、見てみましょう。
p212~215
<スマホと自動車>
スマホをいじっていると時間が潰れるので、スマホ以外のものを欲しがらなくなると言われるが、それは日本だけの現象ではないようだ。筆者が最も興味を持って見ているのは、東南アジアにおける自動車の普及である。工業生産の中で自動車の占める役割は大きい。自動車は裾野が広い産業である。
1人当たりGDPが3000ドルを超えると自動車が急速に普及すると言われる。現在、東南アジアではインドネシア、フィリピン、ベトナムなどがその時期を迎えている。しかし、スマホが普及した現在、そのような過去の経験則はあまり役に立たないと考える。
自動車は移動手段であるとともに富の象徴だった。人はお金持ちになると、押し出しのよい大きな車に乗りたがる。日本には車には富の象徴としての役割があった。私が覚えているCMに「隣の車が小さく見えます」、「いつかはクラウン」などというキャッチフレーズがあった。自家用車は移動手段であるとともに、見栄を満たすものであった。
それは中国でも同じだった。中国人は日本人よりももっと見栄っ張りだから、どの国の人よりも自動車を欲しがった。それも大きくて豪華な車。中国では小型車は人気がないと聞いた。
しかし、そんな中国でも変化が起きている。2017年頃から車の販売が低迷し始めた。エコノミストはその原因はスマホの普及にありそうだ。中国のスマホの普及は日本以上である。スマホが普及すると、新たな現象がいくつも起きる。その一つがシェア自転車であった。これは一時のブームで終わったようだが、それでも一時はすごい人気であった。
スマホはシェア経済に向いている。自動車のシェアも普及し始めた。ただ、シェア自動車はそれなりに面倒臭い。シェア自転車で問題になったように、管理が難しいためだ。みんなで所有するものは管理が難しい。社会学でいうところの“コモンズの悲劇”である。中国のシェア自転車のブームがあっと言う間に去ったように、シェアは経済の主流にはならないと思う。
その一方で移動手段に革命が起きている。それはウーバーやグラブに代表されるスマホを用いたタクシー・システムである。これは、東南アジアの交通事情に革命的な影響を与えている。
<スマホでタクシーを呼べるベトナム>
東南アジアでは、本格的な自動車の普及はこれからである。ベトナムでの自動車の普及は日本より50年、中国より20年は遅れている。現在、ベトナムの年間自動車販売台数は30万台に過ぎない。それは日本が500万台、中国が2800万台であることを考えると、極めて少ない。
そんなベトナムではスマホを利用したグラブに代表されるタクシー・システムが急速に普及した。数年前まで、ベトナムのタクシーは信頼できなかった。遠回りをしたりメーターを改造したり、外国人だけでなくベトナムの人々もその柄の悪さを嫌っていた。
しかし、数年前からスマホを用いたシステムが普及し始めると、状況は大きく変わった。ここで重要な役割を果したのが白タク(免許を持たない一般人が運転するタクシー)である。ベトナムでは、誰もがスマホを用いてタクシー業を始めることができる。その結果、自家用車を持っている人が暇な時間を利用して、こずかい稼ぎを始めた。また、自家用車を貸して、借りた人がタクシーとして使うことも増えた。
一般の人がタクシーを安心して使えるようになった。スマート・タクシーでは動いた道筋が記録に残る。決済もスマホで行うことができる。現金で払ってもよいが、現金を使わなくてもよい。そんなシステムでは過大な請求をされることはない。
人件費が安いこともあり、ベトナムのタクシーは安い。それに加えて、白タクがライバルになったために、プロのタクシーはよほどサービスをよくしないと、白タクにお客を奪われてしまう。
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『日本人が誤解している東南アジア近現代史』1:華僑