図書館で『くもをさがす』という本を、手にしたのです。
西加奈子さんもがんになったのか。それもカナダで見つかったとのこと・・・
がんより復帰した私にとって、がん文学もツボなんでチョイスしたのです。
【くもをさがす】
西加奈子著、河出書房新社、2023年刊
<商品説明>より
カナダで、がんになった。「私は弱い。徹底的に弱い」。でもーーあなたに、これを読んでほしいと思った。祈りと決意に満ちた著者初のノンフィクション。
<読む前の大使寸評>
西加奈子さんもがんになったのか。それもカナダで見つかったとのこと・・・
がんより復帰した私にとって、がん文学もツボなんでチョイスしたのです。
<図書館予約:(5/10予約、9/06受取予定)>
rakutenくもをさがす |
「第1章 蜘蛛と何か/誰か」で怒涛の検診ラッシュが語られているあたりを、見てみましょう。
p34~36
<1 蜘蛛と何か/誰か>
がんであることは、母には内緒にしておこうと思っていた。最初は。やはり私の楽観性のなせる業で、がんであっても、腫瘍を取ればそれで終わりだ、などと考えていたのだった。でも、抗がん剤治療を始めるとなると、髪も抜けるだろうし、体重も減るだろうし、どうやったって黙ってはいられないだろうと思った。
母は泣いた。でも、私が思っていた以上に、冷静に受け止めてくれた。きっと、わたしの気持ちを慮って、そうしてくれたのだろう。感情的な母が、どれほど自分を抑制しているのだろうと思うと、胸が詰まった。カナダで治療を受けることを決めていることにも、彼女は動揺を見せなかった。コロナ禍で、こちらにやってくるのが困難なことを彼女は知っていて、その上で、彼女は言った。
「お母さんには、祈ることしか出来ひんから。」
それは私が、望んでいることでもあった。私は母に、祈って欲しかった。私は彼女の祈りの強さを信じていた。
弘法大使贔屓だった祖母の影響だろう。母も般若心経を諳んじ、四国八十八箇所には父と何度も出掛け、私が長年の不妊治療と流産を経て今の子を妊娠したときは、子の無事を祈って、お百度を踏んだ。
母に蜘蛛のことを告げた。祖母が蜘蛛になって噛んだのだと思う、と言うと、母は言葉をなくしていた。この電話がかかってくる前日に、彼女も洗面所で、大きな蜘蛛を見たのだそうだ。
そしてその翌日、母はもっと大きな蜘蛛を見ることになる。母の掌ほどもある蜘蛛が、トイレの壁にじっと貼り付いていたそうだ。おばあちゃんが来てくれた、と、母は泣いた。
「カナコ、だから大丈夫やで!」
そしてすぐに、お百度を踏みに行ってくれた。
それからは、怒涛の検診ラッシュだった。MRI、PET検査、針生検。担当してくれた看護師は、皆カジュアルだった。それに何故か、腕に大きなタトゥーをしている人が多かった。
PET検査の時の看護師は、「待ってる間Spoyify聞く?」と聞いてくれた。
「私ので良かったら!」
いや、ええよ、と断った。あなたは優しいね、と言うと、彼女は何故か爆笑した。
針生検は、8月に受けたものより、精密なものだった。担当の医師はインターンのマークで、サムという先輩の医師が付き添った。マークは、
「今日の医師は全員男性だから、もし居心地が悪かったら言ってね」
と言った。そんなことを聞いてくれることに驚いた。大丈夫やで、と伝えた。彼が針を刺すと、サムがモニターを見ながら、
「そうじゃないマーク、曲がっている、まっすぐ!」
などと言う。まるで、バシケットボールの試合を見ているコーチのようだった。
「そう、そこだ、行け!」
私の胸に、何度も針が刺された。バチンッ、バチンッ! あんまり時間がかかったので、最後の2刺しはサムがした、麻酔が切れかかっていたのか、とても痛かった。うう、と唸ると、
「君はタフだね!」
と、マークが言った。
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『くもをさがす』1