図書館で『「スパコン富岳」後の日本』という本を手にしたのです。
スパコンといえば・・・かつて神戸のポートアイランドの理化学研究所計算科学研究センターまでスパコン京を見に行ったように、物見高いのであった。
【「スパコン富岳」後の日本】
小林雅一著、中央公論新社、2021年刊
<「BOOK」データベース>より
世界一に輝いた国産スーパーコンピュータ「富岳」。新型コロナウイルス対応で注目の的だが、真の実力は如何に?「電子立国・日本」は復活するのか?新技術はどんな未来社会をもたらすのか?莫大な国費投入に見合う成果を出せるのか?開発責任者や、最前線の研究者(創薬、がんゲノム医療、宇宙など)、注目AI企業などに取材を重ね、米中ハイテク覇権競争下における日本の戦略や、スパコンをしのぐ量子コンピュータ開発のゆくえを展望する。
<読む前の大使寸評>
スパコンといえば・・・かつて神戸のポートアイランドの理化学研究所計算科学研究センターまでスパコン京を見に行ったように、物見高いのであった。
rakuten「スパコン富岳」後の日本
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第4章で米中ハイテク覇権争いを、見てみましょう。
p179~181
<米国の制裁で停滞する中国の半導体産業>
米国政府による厳しい技術禁輸措置を受け、中国のメーカーや研究機関などは次世代スパコンに搭載されるプロセッサなどの自主開発を加速すると見られている。しかし彼らが仮に、エクサ級のCPUを自主開発(設計)できるレベルに達したとしても、それを「製造」することができない。なぜなら中国には、台湾TSMCや韓国サムスン電子に匹敵する最先端の製造工場が存在しないからだ。
確かに中国国内には、2000年に設立された国策企業「中芯国際集成電炉製造(SMIC)」というファウンドリが存在する。同社は中国最大の半導体メーカーにして、CPUなどロジックLSIの受注額では世界5位だが、台湾TSMCなど先頭グループに匹敵する最先端のチップ製造技術は未だ有していない。
TSMCは早々と自社工場の製造ラインに、最先端となる5~7ナノ・メートルのプロセス技術を導入することに成功している。富岳のCPU・A64FXは、それらのうち7ナノ・メートルの技術で製造された。おそらくエクサ・スケールのスパコンに搭載される次世代のCPUも5~7ナノ・メートル、あるいはさらにミクロの微細加工技術が必要とされるだろう。
これに対し、SMICが現時点で半導体製品を量産できる段階にあるプロセス技術は12~14ナノ・メートル。これではエクサ級のCPUを製造することは到底不可能だ。
SMICは2020年中には、7ナノ・メートルのプロセス技術を自社工場に導入する計画と見られていた。しかし同年12月、米国防総省が「共産主義中国の軍事企業」というブラックリストにSMICを追加した。国防総省は声明の中で「今回、リストに加えられたSMICなど4社は、表向きは中国の民間会社だが、実際は中国人民解放軍に先端テクノロジーを提供する軍事支援企業だ」と断じた。
これに対し、SMICは「我々は民間向けの製品やサービスしか提供しておらず、中国軍との取引は皆無だ」と反論しているが、米国政府は聞く耳を持たない。
今回、米国防総省のブラックリストに加えられても、SMICが即座に米国から制裁を科せられることはない。しかし米国の投資家による株式購入の禁止対象になると共に、米国内外の企業がSMICとの取引を控えるように求められる。
この国防総省に続き、同じく20年12月、今度は米商務省がSMICをはじめとする中国企業数十社をエンティティ・リストに追加した。
前述の国防総省のブラックリストなども併せて考えると、SMICは5~7ナノ・メートルのプロセス技術導入に必要となる米国製ないしは米国の技術を使った半導体製造装置や「EDA(Èlectronic Design Àutomation)」と呼ばれる設計ツールなどを輸入することがきわめて難しくなったと言わざるを得ない。
これら米国政府による一連の制裁措置により、SMICなど中国の半導体産業は停滞し、中には武漢市のHSMC(武漢弘芯半導体製造)のように深刻な経営難に陥るファウンドリも出てきた。
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『「スパコン富岳」後の日本』1:はじめに