ロアルド・ダールの『キス・キス』という短編集が良かったわけで・・・
以下のように復刻して読んでみようと思ったのです。
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図書館で『物語の旅』という本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、和田さんのカラー挿絵がええでぇ♪
この挿絵のために紙質を選んだと思われるが、この本を持つとずっしりと重たいことに驚いたのです。
【物語の旅】
和田誠著、フレーベル館 、2002年刊
<「BOOK」データベース>より
書物の国からの絵はがき。著者が選んだ54作品。カラー挿絵とともに四方山ばなし満載!子どもの頃に初めて読んだ「かちかち山」から現在に至るまでの“読書体験”の数々。本好き・装丁好きの著者がその思い出をふり返る。
<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると、和田さんのカラー挿絵がええでぇ♪
この挿絵のために紙質を選んだと思われるが、この本を持つとずっしりと重たいことに驚いたのです。
amazon物語の旅
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54作品のうちロアルド・ダールの「南から来た男」を、見てみましょう。
p142~144
<南から来た男>
とにかくダールはぼくの好きな作家の一人である。学生時代に雑誌で短篇の一つか二つは読んでいたのだが、卒業してまもなく早川書房から「異色作家短篇集」の第1弾として出た「キス・キス」を読んだのが、ダールを認識する第一歩だった。
ダールのような作風をジャンル分けすると、「奇妙な味」ということになる。犯罪ものであっても、通常なら犯人が捕まって解決するところを、誰も犯人に気がつかない、という終わり方になり、それまで読んでいたものとは確かに異なる味だった。
「キス・キス」の中でとりわけ奇妙で、不気味なだけに強い印象を残したのが「ウイリアムとメアリイ」と題する作品だった。ウイリアムは女房が煙草を吸うこと、酒を飲むこと、無駄使いをうることなどを許さない、厳しい夫だった。ウイリアムが死んだあと、友人の医者が彼の脳髄を取り出し、人工心臓につないで容器の中で生かしておく。眼球もつないで液面に浮かべる。当然口はきけないが、以前通り意識はある。女房のメアリイが医者を訪ね、容器の中の夫に会う。そして煙草を吸い、煙を眼球に吹きかける。そして家に連れて帰りたいと言う。
これを読んで、ぼくは、結婚とはなかなか大変なものだ、という読後感を持った。ぼくの結婚がずいぶん遅くなったのはダールとは関係ないが。
夫婦の物語では「ビクスビイ夫人と大佐のコート」というのが軽妙で皮肉で面白かった。妻の長年の浮気相手、金持の大佐が別れ際に高価なミンクのコートをくれる。家に持って帰りたいが、どこで手に入れたか言い訳がむずかしい。そこでひとまず質屋に入れ、質札を拾ったと夫に見せる。ここから先は書かないでおこう。
物語を書いてしまうと、これからの読者の感興を削ぐことになるので、オチのある短篇の紹介は非常にむずかしい。ダールの作品はおおむねストーリイを書くことができない。
「キス・キス」に注いで読んだ短篇集は「あなたに似た人」である。その中の「おとなしい凶器」がたいそう面白い。妻が夫を殺す話。凶器は冷凍庫から出したばかりの羊の骨つき肉だ。食料品が把手のある固い鈍器になるところがいいアイデアである。物語はもっと先があるが、これも書かない。
この作品をぼくが最初に読んだのは雑誌に掲載された時で、ダールという名を知らない学生時代だった。「あなたに似た人」で読み返し、こんなに面白い短篇だったのか、と思った。
ダールの作品はどれも面白い。自伝らしきものもあるが、多分にホラ話的である。「チョコレート工場の秘密」のような童話もある。いろいろある中で、代表作はときかれれば、おそらくは多くの人が同意見だろうが、「あなたに似た人」に収められている「南から来た男」と答える。
プールサイドから話が始まる。アメリカの青年がよくつくライターを持っている。
外国人らしい老人がやってきて賭けをしようと言う。ライターで十回続けて火がついたら、キャデラックをあげる、失敗したら左手の小指をくれ、と言うのだ。さてどうなるか。ちょっと怖くて小味のきいた、実によくできた話である。
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阿刀田高さんもロアルド・ダールの
『キス・キス』を高く評価しています。
『物語の旅』4:南から来た男
『物語の旅』3:霧笛
『物語の旅』2:アシェンデン
『物語の旅』1:長いお別れ