図書館に予約していた『南海トラフ地震の真実』という本を、待つこと7ヵ月ほどでゲットしたのです。
気象庁の公表情報でも発生確率70~80%という数値が出ているわけで・・・この本の告発が興味深いのである。
【南海トラフ地震の真実】
小澤慧一著、東京新聞出版、2023年刊
<「BOOK」データベース>より
「南海トラフは発生確率の高さでえこひいきされている」。ある学者の告発を受け、その確率が特別な計算式で水増しされていると知った記者。非公開の議事録に隠されたやりとりを明らかにし、計算の根拠となる江戸時代の古文書を調査するうちに浮かんだ高い数値の裏にある「真実」。予算獲得のためにないがしろにされる科学ー。地震学と行政・防災のいびつな関係を暴く渾身の調査報道。科学ジャーナリスト賞で注目のスクープを書籍化!
<読む前の大使寸評>
気象庁の公表情報でも発生確率70~80%という数値が出ているわけで・・・この本の告発が興味深いのである。
<図書館予約:(10/20予約、副本?、予約44)>
rakuten南海トラフ地震の真実
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まず「第1章」の冒頭から、見てみましょう。
p15~18
<第1章 「えこひいき」の80%>
■地震学者の告発
「南海トラフ地震の確率だけ『えこひいき』されていて、水増しがされています。そこには裏の意図が隠れているんです」
取材は、地震学者からの衝撃的な「告発」で始まった。
それは2018年2月9日、地震調査委員会が南海トラフ地震が30年以内に発生する確率を「70%程度」から「70~80%」に変更されるとの情報を事前にキャッチした。
「いよいよ東海地方に大地震が迫っている」と直感した私の頭の中では「防災対策は十分か」「自身が起きた場合の被害予測は」など、さまざまなニュースの切り口が駆け巡った。
まずは専門的な観点が必要と考え、本社から名古屋大の鷺谷威教授(地殻変動学)に電話した。鷺谷氏は南海トラフの発生確率の検討に関わった政府の委員会の委員だ。当然、このときは防災のために警鐘を鳴らすコメントが返ってくると期待していた。しかし返ってきたのは、冒頭のえこひいきという意外な発言だった。なぜ、自らが検討した確立を否定するのか・・・。訳がわからなくなりかけている私に、鷺谷氏は続けた。
「個人的には非常にミスリーディングだと思っている。80%と言う数字を出せば、次に来る大地震が南海トラフ地震だと考え、防災対策もそこに焦点が絞られる。実際の危険度が数値通りならいいが、そうではない。まったくの誤解なんです。数値は危機感をあおるだけ。問題だと私は思う」
ミスリーディング? 誤解? 問題? 予想外の言葉に頭が混乱した。要領を得ない私に鷺谷氏はさらに驚くことを言った。
「南海トラフだけ、予測の数値を出す方法が違う。あれを科学と言ってはいけない。地震学者たちは『信頼できない』と考えています。他の地域と同じ方法にすれば20%程度にまで落ちる。同じ方法にするべきだという声は地震学者の中では多いんです。だが、防災対策を専門とする人たちが、今さら数値を下げるのはけしからん、と主張しています」
科学とは言えない? 20%? 下げるのはけしからん? 想定外のコメントの数々が、ますます頭を混乱させた。だが、80%の数値に何かカラクリがあれば、それを知っておく必要がある。
鷺谷氏によると、地震学者たちは、いったんは全国で統一の計算方法を用いて算出した「20%程度」という確率を素直に発表する案も検討したという。ところが、その方針を政府の委員会の上層部に伝えると、大反対が巻き起こった。
確率の出し方は大きく分けて2通りあり、それぞれのメカニズムを電話のやりとりだけで理解するのは難しかった。だが、南海トラフ地震の確率が高いのは特別な算出方法のためで、その方法を地震学者たちが変えようとすると上から圧力がかかったということに、裏の意図があるらしいことは理解できた。
東海地方に住む人間にとって、南海トラフ地震はずっと「必ず来る」と言われ続けている地震だ。そのため、名古屋出身の私も幼い頃から学校などで防災訓練を念入りに行ってきた。しかし、発生確率が作られた数字だったとしたら・・・。この問題は、しっかりと取材しないといけない。そう直感した。
そのときはひとまず電話を終え、デスク(原稿のまとめ役)に報告した。デスクも「70~80%」の数字の大きさだけがことさら目を引くことを警戒し「そんなにでかでかと書かない方がいいな。粛々と報じよう」と冷静に反応した。
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