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2010年08月17日
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--■木谷ポルソッタ倶楽部■---------<2008/1/24>----

     一杯のラーメン

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のれんをくぐった。引き戸を開けた。懐かしい匂いがした。
私はカウンターにゆっくりと腰を下ろした。
注文をしなくてもいい。私の欲しいものはオヤジにはわかっている。

「オマチドウ!」
婆さんがどんぶりをカウンターにドカーンと置いた。
ふふふ、これこれ、これが食べたかった。

今回、入院している間、退院したら、何をまず食べようか。
朝に昼に夜に、私はそればかり考えていた。悩んでいた。
ひと月も過ぎると、それは憧れにまで変わっていた。

ラーメン、トンカツ、中華丼……これがベスト・スリーになっていた。
これがベスト・スリー、しかし、それは、そう毎日、変わっていた。

時には、ゴボ天蕎麦、チャンポン、カレーライスなどに変わる。
病人は他に考えることがないのだ。ふふふ。

分厚いステーキ、油ののった大トロの握りなどは思いもしなかった。
豪華ものでなく普段食べていたものがとてつもなく恋しかった。

そして今……とにもかくにも、目の前に、ラーメンが置かれた。
地鶏の肉片が油の浮かんだスープの中を漂っている。
焼きを入れた太めの白ネギ、大きからず小さからずのチャーシュ、
ふふふ、これよ、これなんだ。

スープをまず飲む。飲む。すする。アチイッ、ああ熱いよな。
地鶏をひときれ、喰う。喰う。ああ、筋があるよな。固いよな。
そして、おもむろに麺を箸ですすりあげる。ズルズルルル……ズル。

二、三分だっただろうか。何も目に入らなかった。
瞬きを何度したろうか。ただひたすらに喰った。
気がついたらどんぶりにひと滴のスープもなかった。

空になったラーメンのどんぶりがカウンターに置かれていた。
それを、私は満足げにいつまでも見つめていた。

「生きている」「生かされている」
人はささいなことで、おのれの命を実感する。
それも元気な頃ではあたりまえのことで実感する。

人間とは愛おしいものだと、しみじみと思った。


■追 伸■

去年の年末、今年の年始と、私は病院で過ごしました。
私の人生にとって長期の入院ははじめての経験でした。
「あんたでも病気になることがあるんだ」
ある人がため息まじりに言われました。

そう、今回は病気も病気、生死にかかわる病気といってもよかったのです。
私は自分の人生の終わりというものを考えました。
六十歳、もう、そう考えてもおかしくない歳になっていたのです。

多くのみなさまにご心配をおかけしました。
おかげさまで、先日、退院し、今後は通院治療となりました。

そして今……「生きるか死ぬか」の気持ちが「生きている」と変わりました。
いいえ、そう、今の私、「生かされている」というのが本音です。

旅もできます。蕎麦も戴けます。音楽も聴けます。映画も見られます。酒も呑めます。
そう、気持ちを新たに、うん、これだけが、ふふふ、むずかしいでしょうね。
そうです。「怠惰」と「欺瞞」の性格は変わっていないのです。

そういうことで、くだらぬ「木谷ポルソッタ倶楽部」を
今までとおり、時々、メールで配信続けることができます。

今後ともおつきあいのほどをよろしくお願いします。

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 木谷 文弘(きたに・ふみひろ)





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最終更新日  2010年08月17日 19時59分27秒
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