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テーマ:木谷ポルソッタ通信より(130)
カテゴリ:木谷ポルソッタ倶楽部ほか
--■木谷ポルソッタ倶楽部■---------<2008/1/24>----
一杯のラーメン ---------------------------------- のれんをくぐった。引き戸を開けた。懐かしい匂いがした。 私はカウンターにゆっくりと腰を下ろした。 注文をしなくてもいい。私の欲しいものはオヤジにはわかっている。 「オマチドウ!」 婆さんがどんぶりをカウンターにドカーンと置いた。 ふふふ、これこれ、これが食べたかった。 今回、入院している間、退院したら、何をまず食べようか。 朝に昼に夜に、私はそればかり考えていた。悩んでいた。 ひと月も過ぎると、それは憧れにまで変わっていた。 ラーメン、トンカツ、中華丼……これがベスト・スリーになっていた。 これがベスト・スリー、しかし、それは、そう毎日、変わっていた。 時には、ゴボ天蕎麦、チャンポン、カレーライスなどに変わる。 病人は他に考えることがないのだ。ふふふ。 分厚いステーキ、油ののった大トロの握りなどは思いもしなかった。 豪華ものでなく普段食べていたものがとてつもなく恋しかった。 そして今……とにもかくにも、目の前に、ラーメンが置かれた。 地鶏の肉片が油の浮かんだスープの中を漂っている。 焼きを入れた太めの白ネギ、大きからず小さからずのチャーシュ、 ふふふ、これよ、これなんだ。 スープをまず飲む。飲む。すする。アチイッ、ああ熱いよな。 地鶏をひときれ、喰う。喰う。ああ、筋があるよな。固いよな。 そして、おもむろに麺を箸ですすりあげる。ズルズルルル……ズル。 二、三分だっただろうか。何も目に入らなかった。 瞬きを何度したろうか。ただひたすらに喰った。 気がついたらどんぶりにひと滴のスープもなかった。 空になったラーメンのどんぶりがカウンターに置かれていた。 それを、私は満足げにいつまでも見つめていた。 「生きている」「生かされている」 人はささいなことで、おのれの命を実感する。 それも元気な頃ではあたりまえのことで実感する。 人間とは愛おしいものだと、しみじみと思った。 ■追 伸■ 去年の年末、今年の年始と、私は病院で過ごしました。 私の人生にとって長期の入院ははじめての経験でした。 「あんたでも病気になることがあるんだ」 ある人がため息まじりに言われました。 そう、今回は病気も病気、生死にかかわる病気といってもよかったのです。 私は自分の人生の終わりというものを考えました。 六十歳、もう、そう考えてもおかしくない歳になっていたのです。 多くのみなさまにご心配をおかけしました。 おかげさまで、先日、退院し、今後は通院治療となりました。 そして今……「生きるか死ぬか」の気持ちが「生きている」と変わりました。 いいえ、そう、今の私、「生かされている」というのが本音です。 旅もできます。蕎麦も戴けます。音楽も聴けます。映画も見られます。酒も呑めます。 そう、気持ちを新たに、うん、これだけが、ふふふ、むずかしいでしょうね。 そうです。「怠惰」と「欺瞞」の性格は変わっていないのです。 そういうことで、くだらぬ「木谷ポルソッタ倶楽部」を 今までとおり、時々、メールで配信続けることができます。 今後ともおつきあいのほどをよろしくお願いします。 ----------------------- 木谷 文弘(きたに・ふみひろ) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年08月17日 19時59分27秒
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