青井夏海 『雲の上の青い空』
雲の上の青い空宅配便ドライバー寺坂脩二が、配達先でのトラブルを解決していく、ほのぼのミステリー集。ハートフルな日常の謎を5話収める。 宅配便ドライバーの寺坂脩二は、仕事が休みの日に友人の代わりに「交通安全の旗持ち」をすることになった。そこで彼は登校班から一人遅れて歩く女の子を見つける(「第一話・みどりのおじさん」)。ほか、忽然と姿を消した銀幕のスター(「銀幕の恋人」)、ひきこもりの青年(「透明な面影」)など、元探偵の脩二が配達先で遭遇する五つの物語を収録。日常に潜む謎を描く名手が贈る、ハートウォーミング・ミステリ。【目次】 みどりのおじさん/銀幕の恋人/三色すみれによろしく/透明な面影/ウサギたちの明日 (「BOOK」データベースより)主人公の脩二は、宅配便<シロヤギ便>のドライバー。年の割に経験は浅く、実のところ、アルバイトから正社員採用になって間もないのです。転職する前の仕事は、私立探偵!その彼が、宅配便を運ぶかたわら出会う事件を解決していくというミステリー。探偵の経験もさることながら、持ち前の男気のようなものが、トラブルから彼を離させません。<ほのぼのミステリー>と楽天ブックスの紹介文にあります。宅配便ドライバーを主人公にしたミステリーというと、思い出すのが坂木司『ワーキング・ホリデー』。こちらもほのぼのしたミステリーでした。でも、読んでみると、印象はだいぶ違いました。ほのぼの、というより――ハードボイルドなのです、脩二が。独身で、自分の腕一本をたよりに生きている毎日。余計なことや面倒事にはかかわりたくない、と思おうとしても、責任感がつい、駆り立ててしまう。感情に流されまい、としながらも、渦中の人々を見遣る視線は決して冷たくない。そう思って読んでいましたら、解説に戸川安宣氏もそのように書いておられました。ハードボイルドが書ける女流作家として、若竹七海の右に出るのが青井夏海である、とも!収録の5作品は、どれもミステリーとして見事な上、登場する人々が、私の町のどこかにもいそうな体温を持った存在です。『みどりのおじさん』の、PTA活動に熱心な母親。『銀幕の恋人』の、引退した女優…ハードボイルドテイストがぐっと全面に出てきたのが『三色すみれによろしく』。そして、その色が更に濃くなるのが『透明な面影』です。これはヤラレてしまうかも、と警戒していたのに、胸をつかれました。つい。一番のおすすめは『ウサギたちの明日』です。『陽だまりの迷宮』を読んだ時にも唸りましたが、青井作品の小学生って、どうしてこんなにも、繊細で、精一杯で、深いんだろう。胸の奥も、目頭も、熱くなってしまいました。抱きしめてやりたい。誰か誰か、抱きしめてやってほしい。でも、子どもたちはその手をすり抜けて、力強く歩いて行くのです。そういう存在だと、作者が信じておられるのだと思います。5篇とも堪能しましたが、もっと、脩二の活躍が読みたい。続編を待望します。