刑務所のモデルとなったEastern State Penitentiaryからアメリカを考える(前編)
大学院で研究をしながら博物館や史跡を巡り様々な視点からアメリカを眺めたいと考えている。今回はPhiladelphia市内にあるEastern State Penitentiaryを訪れた。Philadelphia Museum of Artの近くにあり、市街地からバスで10分ほどで着く。刑務所がこんな市内のど真ん中にあって当時の近隣住民は心配にならないのだろうかと思ってしまった。ちなみにこの刑務所は1829年に囚人の収容を始め1971年に閉鎖となっており、今は刑務所内で当時の様子を伝えるツアーが実施され観光客で賑わっている。正面の入り口から重厚感が伝わってくる。10mほどある高い塀に囲まれており囚人が出られないようになっている。また、監視塔が設けられ当時は監視員が四六時中見張っていたのであろう。パンフレットの冒頭にはこのように書かれている。Eastern State was the world's first true penitentiary, a building designed to inspire penitence- or true regret- in the hearts of prisoners.Its sky-lit cells held nearly 85,000 men, women, and children over its long history, incluidng bank robber "Slick Willie" Sutton and "Scarface" Al Capone. The prison stands today in ruin, a haunting world of crumbling cellblocks and a surprising, eerie beauty. 最初の一文は非常に美しく、この最初の行を読んだだけでこの場所に来て良かったと思えてしまった。このpenitenceはregretよりもさらに深い「後悔や自責の念」を意味する。その後悔を促す(inspire)するために作られた最初の施設がこのEastern State PENITENTIARY(刑務所=後悔を促し更生を目的とする施設)なのだという。刑務所というとprizonやjailの方が馴染みがあるかもしれない。The University of Phoenixのサイトにわかりやすい説明があったのでそちらを引用させていただく。"Jails are typically used to detain people awaiting trial or sentencing, and prisons house people who have been convicted of a crime. The main difference between jail and prison is the length of time an offender is incarcerated. (下線部筆者)University of Phoenix, Different types of incarceration: Jail vs. prison vs. detention center explained, Retrieved September 11, 2023, fromhttps://www.phoenix.edu/blog/jail-vs-prison-vs-detention-center.html#:~:text=Prison%3A%20A%20facility%20that%20holds,A%20prison%20focused%20on%20rehabilitation.また同ページにはPrisonとPenitentiaryの違いを以下のように説明している。Prison: A facility that holds convicted criminals. Penitentiary: Designed for long-term incarceration and typically holds offenders with life sentences or death sentences. ここからもpenitentiaryには服役の年数が長く凶悪犯罪者が収容される施設であることがわかる。刑務所の中を巡ると、服役者の当時の服役生活や人種ごとの犯罪率の格差、現代のアメリカが抱える社会の歪みを垣間見ることができた。写真を交えながら施設の中を少しだけご紹介したい。まずこれがEastern State Penitentiaryの模型図である。中央から放射状に各棟(Cell block)が広がっている。この棟が全部で15棟ある。収容者が増えるにつれて収まらなくなり、増築した跡が見られた。この模型を見た時ふと家族旅行で北海道に行った際に立ち寄った網走刑務所がふと思い浮かんだ。確か網走刑務所も同じように中央から放射状に棟が伸びていて同じような構造になっていた。このように中央から放射状にした方が死角が少なく監視がしやすいのであろう。両者の決定的な違いは素材だ。網走刑務所は木造であるのに対しEastern State Penitentiaryはモルタルのような素材で作られている。網走刑務所の形状は公式サイトから形状を確認していただきたい。↓リンク↓網走監獄Cell Block9から中央に向かって撮影した写真。両サイドに見える扉がcell(牢屋)である。3〜4畳くらいの広さであろうか。普通車がピッタリ収まるくらいと行った方が適切だろうか。兎に角狭かった。誰とも話すことなく孤独を味わいながら独房で月日を過ごした罪人たちは何を考えて生きていたのだろうか。刑務所なのに暗いジメジメ感がなかったのは天井に窓があったからであった。窓すらなく外の世界との接点を完全に遮断する刑務所が多い中この刑務所には天井に窓があり光が降り注いでいた。この光を見上げながら囚人たちは希望を見出していたのだろうか。Eastern State Penitentiaryができる前の刑務所は上記の写真のように囚人たちは大きな一つの部屋に収容されていたらしい。囚人たちが暴れていて無秩序な様子が描かれている。罪人の罪の意識を促すために用いられたのが独房での「孤独」であった。他人との接点を断ち、一人で己の罪と向き合い対話を重ねることで自分が犯した罪(sin)と向き合うことができると設計者は考えた。つまり、設立当初は牢獄は罰ではなく懺悔の手段として用いられていたらしい。どうやらこの刑務所から独房(cell)という概念が誕生したと考えられるのではないだろうか。大胆にもタイトルに「刑務所のモデル」と題したのはこのような理由からである。他にも興味深い展示が沢山あったのだが、思いの外長くなってしまったため一旦ここで終わりにして残りは次回書きたいと思う。きたろう