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2008年08月01日
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カテゴリ:要件事実



第3章 所有権に基づく不動産明渡請求の要件事実

1物権的請求権

前回までで,売買・金銭消費貸借の要件事実をお話しました。
今度は,不動産明渡請求のお話をしましょう。

売買や金銭消費貸借と違って,あまりメジャーではありませんが,万一こういうことが有ったらどうしますか。

あなたは,念願の一戸建てを建てるためA土地を買ったところ,何と草薙氏があなたのA土地を占拠していたのです。しかも,草薙氏はA土地を出て行ってくれません。

草薙氏を追い出すには,裁判しかなさそうですね。
さて,訴状を書きましょう。

まず,請求の趣旨は,
「被告は,原告に対し,A土地を明渡せ」
です。(ちなみに,訴訟物は,「所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権」です)
まさにあなたの求めることを端的に表していますね。

さて,請求原因は何でしょう。
そもそも,あなたはどうして草薙氏に出て行けといえるのでしょうか。
第1章は,売買契約があったから,代金を請求できました。第2章では,消費貸借契約があったから,お金を請求できました。つまり,契約が根拠でした。
しかし,本件では,あなたと草薙氏には何の契約もありません。
契約も無いのに,何か請求できるのでしょうか。
ここで,ヒントとなるのは,占有訴権(せんゆうそけん)です。
まず,「物に対する事実上の支配」を占有といい,占有している人には占有権が認められ,一定の保護があります。そして,占有権を侵害されそうになった人には占有訴権が認められるのです。

(占有保持の訴え)
第百九十八条  占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え)
第百九十九条  占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
第二百条  占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2  占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。


このように,占有権を侵害されそうになったら,占有訴権という,占有権に基づく請求権が認められます。
ということは,単なる事実上の支配にとどまらず,物に対する全面的な支配が認められる所有権にも,所有権に基づく請求権が認められて良いはずです。
これを,物権的請求権といいます。
あなたは,土地を明渡して欲しいのですから,物権的請求権のうちの所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を行使することになります。

小難しく話してしまいましたが,所有権がある人は,「出て行け」と言える権利があるというわけであり,結論としてはご納得頂けると思います。

では,所有権に基づく返還請求権の要件事実ははなんでしょうか。
とりあえず,要件事実の候補となりそうな事柄を挙げましょう。
まず,「所有権に基づく」と言っている以上,1目的物を所有していることが必要ですね。次に,誰かが目的物を占有していなければ,訴える必要がありませんから,2相手方が,目的物を占有し,所有者の占有を妨げていることも必要です。
一見これだけで十分な気もしますが,これだけだと,誰かから借りている場合のように合法的な占有している場合も,所有権に基づく返還請求権を行使できることになります。これでは困るので,3相手方が目的物に対する正当な占有権原(=占有する根拠)を有していないことも要件事実の候補になりそうです。

ただし,3は所有者が立証するより占有者が立証した方が簡単です。例えば,所有者が占有者に占有権原が無いことを立証するより,占有者が賃貸借契約書などで占有権原を立証する方が簡単です。
なので,結局のところ,3は要件事実にはなりません。

ということで,1と2が所有権に基づく返還請求権の要件事実となります。
つまり,原告所有と被告占有が要件事実になります。

こう書くと,一見単純そうですが,所有権と占有権はなかなか難しいものです。
次回に続くとしましょう。



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【参考本】


ゼミナール要件事実(2)





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最終更新日  2008年09月21日 22時43分54秒
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