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カテゴリ:高村薫先生関連
本日は高村薫先生の短編小説「ステーション・パーラー」の感想なんですけどね。 もう、これ・・・この短編の登場人物がね。発売は1996年なのですがつい最近読んだのです。 もう・・・もう・・・もうモモ(もしくは楚要煥)としか思えないーーーーー!!!!!(注:あくまで個人的感想ですから!!!)ってくらい、そのね、簡単に脳内変換できるのよねこれ。 いや・・・これね、先生のまだ比較的初期の作品なので、初期に多く描かれていた、スパイ、北、公安、そうした世界観なんですね。 しかもこれまた大阪が舞台で。阿倍野にある私鉄ターミナル駅での出来事で。その駅の2階にあるステーション・パーラーでの店内でのほんのわずかな時間でのやり取り。 なのに、もうもうもう、緊張感あふれる、密度の濃い、わずかな時間の描写がとてつもなく長い出来事のようで。さすが先生でございます。ぐいぐい引き込まれて一気に読み終えました。 この先は概ねあらすじのネタバレです。こちら小説は絶版なのでもう読まないわ~て方のみお進みください。しかし中古でまだ手に入りますので先入観なしで読んでみたいとお思いの方はご遠慮くださいね。 あくまで個人的に感じた感想、主観が入っておりますのでその点に関してもクレームはご遠慮くださいませ。
その登場人物、主人公がね、20代後半の設定。国費留学生の肩書があり(あれ?)4年間大学に在籍している(あれれ?)アパート住まいで部屋には大量の本がある。書店で本を買い、図書館で好きなだけ本を読める時間を幸福と感じていた。以前はボストンで国費留学生として滞在していたからあちらには同胞が多い。 今日は、いつもと違ういでたちで来ている。借り物のスラックスやジャケット、ダスターコート(薄手の軽いコートのこと)ネクタイを結ぶことになれていない。 5歳下の妹がいて、妹は恋人と国外に逃亡したが恋人に裏切られひとりこの国、大阪に残された。妹の周囲にはすでに外事警察の影があり、接触を厳禁され1年前から会えていない。 妹は自分とは違い正式な訓練は受けていないが、この国でマークされている以上、同胞のことを話していると判断され、自国では疫病神のレッテルを張られている。両親はいるが妹のことはもはや口にしなくなっている。このままでは妹の存在もあやういと感じていた。 自分は今まで国の命令を守り党員としての務めを果たしていたが、妹と共に逃亡するために国を裏切る形をとることになった。ステーションパーラーで落ち合い、逃亡する約束の日。喫茶店でアルバイトをしている妹を待っていたが、妹は待ち合わせ時刻に遅れると連絡があり、仕方なくステーションパーラーの中に入った主人公が、妹を待っている間の話。 主人公などに名前の表記はありません。ここね、これでもう妄想拡大。 でね、その登場人物の一人がね~も~~も~~あの彼にしか思えなかったわ~(誰だよ) キャーーーー(え)いやもうなにこのドキドキ感。どうなるんだろう、この男性は何?どんな人?って登場した瞬間から思ったんですよ。 え、敵?味方?え?ここからラブロマンスが始まるの?(違います)
得体のしれない男が座ったばかりだ。スーツ姿ではなく、ジャンパーとジーパンにローファーという身なりで(もうここであれ?って脳内変換)歳は私(主人公)と同じ三十前くらいか。(はい確定)短く刈った髪は清潔で、顔貌はなかなか精悍な男前だ。(おっとこまえーー!!!ひゃほーーー!!!おとこまえーーー!!) ~中略~
すぐそばで見ると男は店に入ってきた1時間前よりもはるかに長身に見えた(長身!)顎だけわずかに動かして「おい」という身振りをした。男は答えずもう一度顎だけしゃくった。「来い」といったのだ、あるいは「話があると。」 ~略~
能面が消えると、ふいに何でもないごく普通の男の顔が現れた。 ひとこと
「迎えにきた」
と男は言った。
いいいいい、いやーーーーーーー!!!!(絶叫) ちょーーーー!!!!!(大興奮) いやーーーーー!!!!(落ち着け) このセリフがもうダメ~~!!! ってね、もう胸を突きましたわよ。勝手に脳内変換してモモ、もしくは楚要煥に言ってるように思えるんだもん。
この言葉を
モモ、リョファンであったのならば
どんなに待ち望んでいた言葉だろうかと。
どんなにか
こうして 自分に手を差し伸べてくれる人物を待っていたのだろうかと。
「迎えにきた」
たった、その言葉だけでどれだけモモであったのなら、救われたのだろうか。 てね…もうごっちゃになってしまってね、一人勝手に動揺してもうガクガクしてしまったという。 (注・これは決してモモさんのお話ではございませんので!あくまでも私の勝手な妄想でございます) 同じような世界を知り、同じような世界に身を置き、置かれた立場も、今の主人公の状況もわかっていて。余計なことは言わず、初対面なのに、主人公を惹きつけている。 あ、惚れたとかではなくてね、そんな描写はないんですよ。でもね、党員として訓練を受けてきた主人公がですよ、いきなりさっきね、あったばかり、初対面の相手にですよ。 この男に対して、なにかこう…一瞬の希望を見出した?というか、救いを求めたというか、すがりたい想いに駆られてるのではないのだろうか?心を許そうとまでしてしまっているんじゃないかというか…と思ったような描写があってですね。あ、それも私の解釈ですので。 先生がこうして主人公、その男にも名前を付けていないのも、登場人物をもしかしてですが、自分がそれまで書いてきた主人公たちに当てはめていたのかな?なんて思ったり(これも個人的にですので) そんな主人公と、この男が、まともに会話したのは、わずか5分なんですけどね(短) この短い5分だけでもね、この男へと向けられている気持ち、描写がね…
私が圧倒されたのは、傲慢な男の中に見え隠れしている強靭な自信だった。その自信によって立つ大地から、臭って来るあの世界の臭気があった。私の地の中に流れているものと違う、異国の臭気だ~私が勝手な夢を抱き、将来を賭けていた国が、目の前にある。
や、やはり先生の初期作品はえっと、えっと、えっと女性は脇役。 唯一この作品で主人公がちょっと恋慕の思いを抱いた女性の名前のみ表記されていましたが。 男性同士の交流というか、ほんの一瞬のことでも、わずかな出来事でも余計な言葉などなくとも、分かり合える世界、理解しあえる世界というか。そうしたことが色濃く残っている作品でした。
そのあと、主人公は慣れないスーツ類を脱いで着替えるんですが
ボストンバックに入っていた古いセーターとジャンパーに着替え、履き古したズックを履いた。それから最後に処分するつもりでバッグの底に入れていたこれも古いトカ○フ一丁を取り出した。
古いセーターとか、トカ○フとか、もうパーツはモモとしか思えん(笑)最後はね。主人公の当初からの気持ちを曲げることなく進み、終結へと向かっていきます。 ああもうこの頑固一徹(は?)なんかこう、いうこと聞かないというか、そんなの知ったことか!と自分が決めたことを通す主人公がモモのようで…(泣)
そしてここから、それなりに最後のシーンのネタバレになります。ここまでは読んだけどやっぱり最後は自分で確かめた言って方は読まないでくださいね~
でもこれどうなったんだろうって最後なのよね。 ここに至るまでの主人公の心理がとてもつらくて、そこから怒涛の展開になって驚愕の真実が公安から主人公にへと伝えられて。それでも主人公は信じなくて、妹のために動く。 その描写が、悲しさと切なさと絶望とどこかでわかっていた自分への諦めと…
ただそれは本当に妹のためであったのだろうか。
妹を逃がすために、行動を共に国を裏切る形を選んだ時点で自分自身を殺し、すべてのことに希望を見いだせないままそれでも自分は妹がいれば生きていけると、その妹がもういない事実。
それをどこかで主人公はずっとわかっていて。それでも信じたかった、生きる糧としたかった。そうしなければ、ステーションパーラーでの行動に意味がなくなる。 今までの妹との時間は消えてしまう。
そうした流れからの、終結なんですけど 最後どうなった???え?えええっ!!!って、終わりでした。 読み手に余韻をものすごく残した終わり方というか。その後の解釈は、読み手側にゆだねるというか。ええ、ええ、もうゆだねちゃってくださいよ(泣) あれはモモというか、の物語なの?というか、楚要煥(チョ・リョファン)時代のなの?とか勝手に思えてしまうというか。 なんというか、結構衝撃的な短編小説でございました。
大阪の阿倍野の私鉄ターミナルにあるステーションパーラーで。 狭い小さな店内での人間同士の観察、細かい心理描写、駆け引き、そしてふいに現れた救いの手(一概に救いではないのですけどね、救いであるように思いたいというか)を差し伸べる男とのほんの僅かな触れ合い、憧れ、現実からの逃避、最後の展開に至るまでの主人公の葛藤。 こんな短い小説で、むしろ短かったからこそ凝縮し無駄な描写が省かれ、尚且つ濃密な、高村先生らしい展開、魅力が全開でございました。(いや、今は今で先生の魅力がございます。当時しか書けなかったであろう作風というのでしょうか) あと、すでに発表当時に読まれた方とは受ける印象は当然違うと思いますので。 あくまでも「黄金を抱いて翔べ」が好きで、そこから高村先生の作品をちらほら読んだものの感想でございます。基準がすべてモモになってしまうという(汗) その点は個人的感想ということでご理解をお願いいたします。
あ、お相手の彼はご想像にお任せします、ムフフ。や、ムフフって話ではないですよ。決してそんな描写はないので。ただまあその奥というか根底にはそうした想いが秘められてるように思えてしまう、高村先生一ファンの感想でした。
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お久しぶりです
しばこです ちょ…!!! この小説…何? 読みたい!! 「迎えにきた」で、もう胸が締め付けられた…(T-T) 勝手にあの声に変換されて聞こえてきましたよぅ~ やばい…これ以上に萌えるセリフってない(。>д<)!! ほんと幸せです♪ またハッピーエンドの妄想ができそうです! ありがとうごじゃいます (2015.05.24 11:19:46)
しばこさん
その節はどうもでした~コメントありがとうございます~ いやもうまさかの小説でした(笑)この記事はマニアックすぎてどうかと思ったのですが(笑)しばこさんも気になりますか~♪ 機会があれば是非に。自分的には黄金の世界へといざなってくれました。 (2015.05.25 09:57:04)
しばこさん
マニアック記事をお好きと(笑)ありがとうございます。なかなか高村先生の記事ではお読みにならない方は興味がない記事になってしまうかと思いますが。(笑) しばこさんもそうでしょうけど、自分が感じたことをこれからも書き続けていこうと思います~またコメントお待ちしてます♪ (2015.06.03 09:08:38) |