カテゴリ:読書
「イノセント・ゲリラの祝祭」をやっと手にした。
今まで図書館で予約が多くて読めなかった。 この作品は、海堂による多くの作品と同様。 「チーム・バチスタの栄光」の設定をそのまま取り入れている。 舞台が桜宮市ではなく、霞ヶ関という点が少し違う。 だが、田口と白鳥のペアはそのまま登場。 「螺鈿迷宮」の碧翠院桜宮病院は火災で焼失。 「ジェネラル・ルージュの凱旋」の速水はすでに北の地へ去った。 東城大学付属病院は12階建ての新たな病棟建設真っ最中。 そんな中、高階病院長の代役として東京での会議に出席する田口。 その会議は「医療事故調査委員会創設検討会」。 ここでは医療の現場が描かれることはない。 会議室の中で語られるのみだ。 海堂はここでも持論を展開する。 それがAi(オートプシーイメージング)だ。 日本の場合、人が死んでも解剖される確率は2%ほどしかない。 多くが死因不明だ。 医師は死亡診断書に「心不全」などとと記入し処理。 医療事故が疑われる場合。 遺体を解剖せずに火葬してしまうと真実が明らかにならない。 そのことは遺族と同時に社会的なマイナスとなる。 そこで出てくるのがAi。 日本に多く存在するMRIやCTを使って死因を究明する。 日本では遺体にメスを入れることを遺族は嫌がる。 病院側も費用がかかる(1件約25万円と言われる)ので解剖したくない。 Aiならば遺体も傷つかず、人件費を含めた費用も安く済む。 日本ではすでに千葉大学(海堂の母校)や群馬大学で実現している。 笑ったのが日光・月光菩薩と呼ばれる人の質問。 彦根新吾に対して「右翼か左翼か?」と訊くのはナンセンス。 今どき、そんな質問を会議でするわけがない。 そんな質問は、もっと青臭い人たちが居酒屋でするもの。 その後、彦根が演説する内容も荒唐無稽。 せっかく現役医師が書く小説なのだから、もっとリアルにしてほしかった。 海堂は彦根にこう言わせたかったのだろう。 「医療という花に、欲にまみれた愚鈍な手で触るな」 青島刑事ではないが、医療は会議室で提供しているわけではない。 実際の現場は霞ヶ関から遠く離れている。 医療裁判もまた、問題解決に役立つわけではない。 ただ単に、司法としての判断を下すだけだ。 ところで私にはわからないことがある。 檜山シオンはどうして会議に参加しなかったのか? 最初から彦根を代役に立てるにしても、やり方に納得できない。 この作品を読んだ多くの人は、「極北クレイマー」を読むのだろう。 「ジーン・ワルツ」で問題視された福島県立大野病院産科医逮捕事件がモデルになっている作品。 「氷姫」こと姫宮も北に向かうため、今回の会議には関係しない。 警察の動きも医師逮捕に向かっていて気になる。 本作品や大野病院でも出てきて重要なのが医師法21条の問題。 この問題を解説するスペースがないので、以下のリンクを参照されたし。 医師法21条の歴史と矛盾 医師法21条:「異状死体」の届け出義務について 「異常死とは何か」という問題。 これをいいかげんにしてきたことは、彦根でなくとも知っている。 医療と司法の関係は、この問題を通じても語られるべき。 また、イノセント・ゲリラは「東京都二十三区内外殺人事件」ともリンク。 私は読んでいないが、田口が見つけた死体というのがその事件なのだろう。 なお、この作品は文庫化された。 上下巻各500円とハードカバーに比べて安い。 *********************** 関連記事 『イノセント・ゲリラの祝祭』 (著)海堂 尊 【本】イノセント・ゲリラの祝祭 海堂尊『イノセントゲリラの祝祭』 「イノセント・ゲリラの祝祭」【本】海堂尊 イノセント・ゲリラの祝祭<海堂尊>-(本:2009年読了)- イノセント・ゲリラの祝祭/海堂尊 「イノセント・ゲリラの祝祭」海堂尊 イノセント・ゲリラの祝祭 「イノセント・ゲリラの祝祭」 海堂尊 *********************** ※トラックバックは管理人が承認した後に表示されます。 バナーにクリック願います。 ***トラックバックはテーマに関係するもののみどうぞ。 その場合リンクは必要とはしません。 意見があればメッセージでどうぞ。 ただし荒らしと挨拶できない人はお断りです。 今のところメッセージは全て読んでいます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.02.18 10:09:09
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