カテゴリ:詩、俳句、短歌、川柳、都都逸等
歌人小池光氏の著した「うたの動物記」より、夏の俳句を一句ご紹介します。こんな動物まで歌に詠んでしまう民族は日本人の他にいないのではないかと思えてきます。
その動物とは、「蛭(ヒル)。体を尺取虫のようにくねくね折り曲げて移動し、動物に吸い付いて血を吸うあのヒルである。 私らが子供のころは、農作業は今のように機械化されていなく、何事も文字通り手作業が主でした。農家の方は、つらい農作業もさることながら、水田に生息するヒルにも大変悩まされたことでした。それも農薬の普及により、今ではヒルを見ることもめったになくなりましたね。 血を吸われるのは蚊でさえもごめんこうむりたいのに、ぬめりのある体をくねくね折り曲げるように動き回り、蚊の何十倍もの口で吸い付くのですから、けっして気持ちのいい動物とはいえませんよね。 ところがこの嫌われものヒルは、有史以来人間と関わりが深かったというのですから驚きです。 「古事記の国生み神話では、女性であるイザナミノミコトが先に愛を告白してしまったがために『蛭子』が生まれ、これを葦船に入れて流してしまう。物語のはじまりから、忌み嫌われてきた」と書かれているところをみれば、ヒルは神代の昔から生息していて、恐れ多くもご神体に吸い付くこともあったのだろう。 我妹子(わぎもこ)が蛭の血を拭く蕗葉(ふきは)かな 松浦青々 もはやヒルの不気味さは微塵も感じさせませんね。我妹子の白いふくらはぎ、赤い鮮血、フキの葉の青、妖艶な美女のなまめかしさを演出するヒルです。 日本人の感性の豊かさが感じ取れる味わい深い一句と言えましょう。 ちなみにヒルは夏の季語であるということです。先の句は丁度今時分の時節に詠まれたものなのでしょう。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年05月21日 17時10分11秒
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