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テーマ:日々自然観察(9780)
カテゴリ:昆虫(アブ、カ、ハエ)
今日は、その中から我が家としては「珍種」であるキスネクロハナアブ(Cheilosia ochripes)を紹介する。最初はセイタカアワダチソウに来たのだが、虫の重みで花穂が枝垂れて虫は花の下側になってしまい、旨く写真が撮れない。その内、既に黄色くなり始めたブルーベリーの葉に留まったので、セイタカアワダチソウに留まっている写真は最初の1枚だけである。
キスネクロハナアブはハナアブ科(Syrphidae)ナミハナアブ亜科(Milesiinae)クロハナアブ族(Cheilosiini)に属す。写真の個体は、体長約13mm、翅長約10.5mm、翅端まで約16mmとかなり大型で、遠くから見るとアメリカミズアブによく似ていた。双翅目をよく知らない人ならば、ミズアブ類と間違える可能性がある。
このクロハナアブ類を我が家で見るのは初めてである。似た様な種類が多く、ハナアブ類の中でも最も厄介な連中として名高い。特にこのキスネクロハナアブの属すクロハナアブ属(Cheilosia)は種類数も多く(九大目録で58種、「みんなで作る双翅目図鑑」では65種)、更に、酷く類似していて、素人には禁断のグループとされている。
私はよく知らないのだが、市毛氏の「ハナアブ写真集」を見ると、複眼無毛のAグループ、複眼有毛で顔有毛のBグループ、複眼有毛で顔無毛のC・Dグループと、全部で4つのグループに分けられるらしい。 写真を見れば明らかな様に、複眼には毛がある(上の写真)。顔は正面から見ると周辺には若干の毛がある様に見えるが、全体としては無毛である(下の写真)。どうやらC・Dグループに属すらしい。
ハナアブ類の識別には脚の色が問題になることが多い。写真でお分かりの通りセイタカアワダチソウの花粉だらけで脚の色は良く分からないが、各腿節は黒く先端のみが茶褐色、脛節はほぼ茶褐色の様だが、その後半はやや色が濃い様に見え、各付節は暗色である。また、触角第3節は殆ど円形をしている(上の上の写真)。 これらの特徴を基に、市毛氏の「ハナアブ写真集」で調べてみたところ、オオクニクロハナアブが一番近い様に思えた。しかし、頭の形が一寸違う。それに「ハナアブ写真集」に載っていない種類もかなりある。
其処で、例によって「一寸のハエにも五分の大和魂・改」のお世話になる次第と相成る。 早速、ハナアブの研究をされているpakenya氏から御回答を頂いた。オオクニではなくキスネクロハナアブであった。「ハナアブ写真集」でオオクニの上に出ていた種である。御話に拠れば、「夏から秋に見られる種で、特に秋に見る機会が多いです.この仲間の同定は困難なものがほとんどですが、この種は比較的わかりやすいです.複眼有毛、顔面は長毛を欠き、小楯板には長毛はあれど剛毛を欠くいわゆるC種群の大型種で、顔の中隆起の上辺がなだらかなので横顔に特徴があります.春に出現するC. japonicaニッポンクロハナアブと酷似していて、同じ種の季節型ではないかと推定する人も居ますが、中隆起の形と眼縁帯下部の幅がキスネの方が狭い傾向があり、形態が違うのであれば別種であろうと考えています(私は)」とのこと。 更に、「キク科の花によく来るため、花粉まみれになっている個体をよく見ます。アーチャーンさんの画像の個体も黄色の花粉が大量に付着していますね.セイタカアワダチソウにでも寄ってきたのでしょう」と、正に御賢察の通りであった。
最近は「東京都本土部昆虫目録」に載っていない(東京都未記録)種を撮影することが屡々ある。其処で、このクロハナアブも「もしや?」と思い、一応確保(ネットで採集して大きなプラスティックの筒に入れた)して置いた。だが、残念ながら(ハナアブ君にとっては幸いにも)目録にチャンと載っていた。 しかし、その記録は狭山丘陵(東京都北部、埼玉県との境)にただ一つあるのみで、皇居や赤坂御所、常盤松御用邸、井の頭公園付近での報告には載っていない。少なくとも、この辺り(東京都世田谷区西部)の住宅地では相当の「珍種」と考えて良い様である。
pakenya氏からの御回答にも「この種は都内にも記録がありますね」とあった。其処で早速、囚われの身となっているキスネクロハナアブを逃がしてやった。 採集してからほぼ丸一日(暴れるといけないので暗い所に置いておいた)だが、まだ元気一杯、蓋を開けた途端に何処かに消えて見えなくなってしまった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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